<東北の本棚>国際化を考える一助に

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

シリア沙漠のポートレート

『シリア沙漠のポートレート』

著者
渡部 光哉 [著]
出版社
リフレ出版
ジャンル
芸術・生活/写真・工芸
ISBN
9784866414690
発売日
2022/03/19
価格
3,850円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>国際化を考える一助に

[レビュアー] 河北新報

 「シリアとの関わり、シリアの友人たちに対する感謝の思いを込めた」。1980年代から中東のシリアを見つめ続ける写真家が、砂漠に暮らす人々を収めた初めての写真集。

 シリアとのつながりは、測量分野の青年海外協力隊員として派遣された81年にさかのぼる。計3年間の滞在中、各地を巡り、日々の記録としてシャッターを押し続けた。歓待を受けた家を再訪する際は、お礼の写真を必ず持参した。

 任期終了直前に首都ダマスカスで初めて開催した個展が写真家になるきっかけとなった。帰国した後のシリア再訪は10回を数える。掲載の354枚は数万こまの中から厳選した。「人間を撮るのが大好き」だというスナップ写真は、笑顔あふれる1枚もあれば、思いが宿るまなざしを捉えた1枚もある。アラブの春以降のシリア内戦で消失した建築もあり、かつての神殿や街並みを捉えた一こまは貴重だ。

 キャプションがない作品が多い。「受け止め方は読者に委ねる。何だろうかと思い、それぞれのイメージを膨らませてほしい」との意図がある。中東文化への理解を促そうと、所々に作家曽野綾子さんの「アラブの格言」(新潮社)から引いた言葉98点が添えられている。

 著者の友人には、内戦による難民としてサウジアラビアや欧州に逃れた人もいるという。2月のロシア侵攻以降に発生したウクライナ難民の姿が重なる。シリアやミャンマーの少数民族ロヒンギャの難民を憂える日本国内の声も少なくないが、政府の受け入れ態勢は他国と比べて十分とは言えない。「ウクライナを支援するのはいいこと。これを機に難民問題に目を向けてもらいたい」。写真集には、日本の国際化を考える一助にしてほしいという願いもある。

 著者は湯沢市在住。父親の後を継ぎ、家業の写真スタジオを経営している。(あ)
   ◇
 リフレ出版03(3823)9171=3850円。

河北新報
2022年5月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク