『高鳴る心の歌』
- 著者
- 朝妻一郎 [著]
- 出版社
- アルテスパブリッシング
- ジャンル
- 芸術・生活/音楽・舞踊
- ISBN
- 9784865592511
- 発売日
- 2022/02/28
- 価格
- 2,200円(税込)
書籍情報:openBD
高鳴る心の歌 ヒット曲の伴走者として 朝妻一郎著
[レビュアー] 篠崎弘(音楽評論家)
◆音楽著作権めぐる裏話
「日本ではまだまだCDが売れている」「LPも再評価」などのニュースは時おり報じられるものの、世界全体の音楽メディアの中心はストリーミングサービスに移っている。CDというモノを売るレコード会社に代わって、楽曲の権利を扱う音楽出版社に注目が集まる。
だが「音楽出版」の世界は長く裏方だったためか、仕事の中身はそれほど知られていない。日本の音楽出版社最大手フジパシフィックミュージックの代表取締役会長のこの本はかっこうの入門書だ。
著者はラジオの選曲や音楽評論家を経て音楽出版社に入社。洋楽では「白い恋人たち」などのヒット曲を日本に紹介し、邦楽ではザ・フォーク・クルセダーズ「帰って来たヨッパライ」や吉田拓郎「結婚しようよ」、新井満(まん)「千の風になって」などに関わり、大瀧詠一や加藤和彦らと親交を結んだ。その回想録はそのまま音楽出版の歴史解説と、実例豊富なビジネス解説になっている。
「ボブ・ディランが著作権をユニバーサル音楽出版に三億ドルで売却」といったニュースの向こうに透けて見えるのは、音楽著作権や、有力アーティストを擁するレーベルが、世界的企業の投資ビジネスの対象になっているという現状だ。ストリーミングの発展によって、音楽は一時的にヒットしてやがて忘れられるものではなく、長く繰り返して聞かれて利益を生み出し続けるものに変わった。
その変化の中でヒット曲を見つけ、スタンダードになりそうな楽曲の権利を得るためにさまざまなネットワークを駆使してきた著者の回想は実はかなり生々しいのだが、スパイス・ガールズに好きなメロディーを歌ってみせたら契約できた、A&Mレコードの出版責任者の名前を昔のレコードのクレジットで覚えていたのが契約につながったなどのいかにも音楽好きらしいエピソードが、生々しさを救ってくれている。フォークル「イムジン河」の発売中止と「悲しくてやりきれない」誕生などの裏話も興味深い。
「もう1冊」には恐縮ながら著者朝妻氏へのインタビューを収めた拙著を。
(アルテスパブリッシング・2200円)
1943年生まれ。著書『ヒットこそすべて オール・アバウト・ミュージック・ビジネス』。
◆もう1冊
篠崎弘著『洋楽マン列伝1』(ミュージック・マガジン)。朝妻への2011年のロングインタビューを収録。