『ミーニング Meaning 人間の知的自由について』マイケル・ポランニー、ハリー・プロシュ著(ミネルヴァ書房)

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ミーニング

『ミーニング』

著者
マイケル・ポランニー [著]/ハリー・プロシュ [著]/飯原 栄一 [訳]/小島 秀信 [訳]/山本 慎平 [訳]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784623089307
発売日
2022/01/18
価格
4,950円(税込)

書籍情報:openBD

『ミーニング Meaning 人間の知的自由について』マイケル・ポランニー、ハリー・プロシュ著(ミネルヴァ書房)

[レビュアー] 中島隆博(哲学者・東京大教授)

伝統が自由社会を保障

 この本のもとになった講演がなされたのはもう半世紀以上前のことである。ポランニーはブダペスト大学で医学博士号・化学博士号を取得した後、ベルリンの研究所にいたが、ユダヤ系であったために、ナチスの迫害から英国に亡命した。英国では社会学や哲学に関心を移したために、全体主義社会に巣食うニヒリズムとその上での意味の統制に対して、自由社会をどう擁護するのかが重要な課題となった。本書が追究したのは、ニヒリズムに陥ることのない意味の基礎づけと、その上で享受される知的自由である。

 意味の基礎づけにポランニーが用いたのが、自らが提起した「暗黙知」の理論であった。「我々は暗黙知には三つの中心があることを見てきた。第一は従属的諸部分であり、第二は焦点的な対象であり、第三は第一のものと第二のものとを結びつける知る者である」。たとえば、探り針で虫歯を検知するとき、掌では探り針を従属的に感知しているが、そこから注意の焦点は探り針の先の虫歯へとあわされ、まるで先端が対象に触れているように、わたしという知る者は感じていく。これが焦点的な感知である。ポランニーはこの暗黙知のあり方を、「焦点的な対象は従属的なものの意味となる」と定義する。

 そしてこの三つ組み構造(従属的部分、焦点的部分、知る者)はあらゆる領域に見出(みいだ)される。すなわち、知覚、科学、隠喩、芸術作品、神話、宗教等々である。ポランニーは、これらの領域において、決してニヒリズムに陥らない、意味付与の構造を擁護したかったのだ。その上で、自由社会は全面的に開かれたものではなく、伝統的枠組みによって保障されることによって自由であると述べる。カール・ポパーの「開かれた社会」を念頭におきながら、ポランニーは、宗教的信仰の重要性や科学者の共同体への信頼を伝統的枠組みの中に数え上げたのだ。

 それは、自由であることと保守的であることが、意味を介して絶妙に調和することだ。その醍醐(だいご)味を読者には味わっていただきたい。飯原栄一、小島秀信、山本慎平訳。

読売新聞
2022年5月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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