『都筑道夫創訳ミステリ集成』都筑道夫訳(作品社)

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都筑道夫創訳ミステリ集成

『都筑道夫創訳ミステリ集成』

著者
都筑道夫 [訳]/ジョン・P・マーカンド [著]/カロリン・キーン [著]/エドガー・ライス・バローズ [著]/小松崎茂 [イラスト]/武部本一郎 [イラスト]/司修 [イラスト]/新保博久 [著、解説]/堀燐太郎 [著]/平山雄一 [著]
出版社
作品社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784861828881
発売日
2022/02/28
価格
6,160円(税込)

書籍情報:openBD

『都筑道夫創訳ミステリ集成』都筑道夫訳(作品社)

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大准教授)

原作より面白く 翻訳術

 近年、推理作家・都筑道夫の短編集や初期長編の復刊が相次ぎ、リバイバルの気運が高まっている。そのなかで本書は、入手困難だった海外児童物長編三作を収めた極めつきの作品集だ。しかも本書の魅力はそれだけにとどまらない。

 そもそも「創訳」とは何か。海外作品を換骨奪胎した「翻案」ならば、たとえばフィルポッツ『赤毛のレドメイン家』と江戸川乱歩『緑衣の鬼』の関係を思い浮かべる。「創訳」とは、都筑の理屈を借りると「むずかしいものを、(やさしく)書きなおしていいのなら、おもしろくないものを、書きなおしてもいいだろう」ということで、登場人物や舞台設定のみ残し、筋を大胆に変えてしまうことである。翻訳や翻案から大きく逸脱する。かといって純然たる創作でもない。それが「創訳」の謂(いい)である。

 『銀のたばこケースの謎』の冒頭に靖国神社の縁日の情景が登場する。日本も舞台にした海外物なのでいいのだが、評者は都筑の連作短編集『東京夢幻図絵』中の一作「九段の母」を思い出した。読み返してみると共通性がある。外国人はとてもこの雰囲気は描けないだろう。

 本書は新保博久・平山雄一両氏による詳細な注が大きな特徴で、原作とどう違うのかが細かく指摘されている。「おもしろくないもの」をいかに面白くしたのか、都筑流創作術がここからわかる。ふつう注は本文を読む流れを阻害しかねないものだが、本書の場合、本文を止めてまで読むと楽しめること請け合いだ。

 『銀のたばこケースの謎』には乱歩の推薦文が付されており、これも収められているが、実はこれまた都筑の代筆だという説があることに驚く。著作権が厳しい現在では考えられない愉快で闊達(かったつ)自在な執筆精神を素直に受けとめたい。

 評者はバローズ「火星物」の創訳『火星のくも人間』を好む。全九作で映画になった、あのスペースオペラを思い出させる筋立てや奇怪な宇宙人、人間チェスの趣向を存分に楽しんだ。

読売新聞
2022年5月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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