『屈辱の数学史 Humble Pi A COMEDY OF MATHS ERRORS』マット・パーカー著(山と渓谷社)

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屈辱の数学史 A COMEDY OF MATHS ERRORS

『屈辱の数学史 A COMEDY OF MATHS ERRORS』

出版社
山と溪谷社
ISBN
9784635310406
発売日
2022/03/16
価格
3,190円(税込)

書籍情報:openBD

『屈辱の数学史 Humble Pi A COMEDY OF MATHS ERRORS』マット・パーカー著(山と渓谷社)

[レビュアー] 小川哲(作家)

計算ミス 悲喜劇の数々

 小学生のとき、よく計算ミスのせいで悲惨なテスト結果を招いた。中学生になってから、計算ミス自体を防ぐ方法はないということに気づいた。ミスが防げないのであれば、ミスをしたときに気づくようにすればいい。100グラムの酸化鉄を200グラムの鉄に還元できるはずがないし、公園の面積が2万平方キロ・メートルになることはない。偶数と偶数を掛け算しているのに奇数になるはずがないし、2桁の数字と2桁の数字を掛け算して5桁の数字になることはない。

 本書では、そういったエラーを防ぐための考え方を「スイス・チーズ・モデル」と紹介している。エラーを防ぐための対策にはチーズのように穴が空いている。それぞれの壁はエラーを完全に防ぐものではないが、何枚も壁を並べることでどこかの壁に当たり、エラーに気がつく。

 しかしごく稀(まれ)に、すべての壁を通過するミスが起こる。ときとしてそのミスは重大な事態を招く。そうやって数々の予防策をすり抜けたミスが紹介され、どのようにして人々が誤ってしまったのか、その過程が丁寧に検証されている。カレンダーを間違えたせいでオリンピックに出場できなかった選手団、兵士が行進したせいで崩壊した橋、ドアが内開きだったせいですぐに外に出られず子どもたちが死んでしまった劇場、プログラムの制約で好戦的になってしまったゲーム上のガンジー、キログラムとポンドを間違えたせいで墜落しかけた飛行機……。本書では実に様々なミスが紹介されている。笑えるものもあれば、人命が失われたものもある。

 本書を通じて、私たちがミスを反省することができるのは、ミスを記録してきた人々がいるからだとわかる。ミスは避けるべきだが、ミスを隠すことはもっと避けなければならない。

 『屈辱の数学史』という題ではあるが、数学の知識は必要ないし、数学が好きである必要もない。ミスを減らしたいと思っているすべての人に向けられて書かれた本だ。夏目大訳。

読売新聞
2022年5月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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