今、熱き中国SFの最先端から14人の女性作家が放つ日本オリジナル

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今、熱き中国SFの最先端から14人の女性作家が放つ日本オリジナル

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 中国では科学技術者の女性比は四十パーセントを占めるという。女性のSF関係者も若い世代になるにしたがって増えている。『走る赤』の序によれば、それでも性別にまつわる偏見があるらしい。だから本書のような女性SF作家のアンソロジーが編まれた。全十四編収録。「#宇宙 #ノスタルジー #人生の終わり」など、目次に内容の手がかりになるタグがついている。

 蘇莞ウェンによる表題作の主人公は、七年前に自動車事故にあった。身体は病院で昏睡状態だが、意識だけの存在となってオンラインゲームの中で作業員として働いている。春節の夜、プログラムに不具合があって、彼女は紅包くじ(お年玉)引き抜きゲームの紅包として認識されてしまった。午前零時になるとすべての紅包がリセットされ、彼女も消える。彼女はゲームから脱出するために必死で走る。バーチャルな世界でしか動くことができない自分は人間なのかどうか不確かに感じていた彼女が、ゲームの外側にいる人々に助けられ、〈偽物ではない本物の心〉を取り戻すくだりは清々しい。

「折りたたみ北京」でヒューゴー賞を受賞したハオ景芳の「祖母の家の夏」は、ガールフレンドと別れ学業もうまくいかず無気力になっている大学生が、ひとり暮らしの祖母の家に行く話。取っ手を引いても動かないドア、冷蔵庫を開けると中には熱い鉄板と焼けたアップルパイ……。愉快な仕掛けが満載のビックリハウスで楽しそうに科学実験を続け、孫がどんな失敗をしても〈大丈夫、何でもないわ〉と言う祖母に惹きつけられる。結末も微笑ましい。

 黒船の代わりに宇宙船がやってきた日本を舞台にした痛切かつ鮮烈な異種間シスターフッド「木魅」(非淆著)、先端テクノロジーに引き裂かれた母と娘の絆を描く「世界に彩りを」(慕明著)もいい。中国の女性SF作家の創造力の豊かさと多様性を知らしめる一冊だ。

新潮社 週刊新潮
2022年5月19日夏端月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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