映画と映画から生まれた小説と映画監督を形作るものと

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  • きのうの神さま
  • 音のない花火
  • 是枝裕和 対談集 世界といまを考える 1

書籍情報:openBD

映画と映画から生まれた小説と映画監督を形作るものと

[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

『ゆれる』『永い言い訳』『すばらしき世界』などで知られる映画監督西川美和は、小説も本当に巧い。過疎地の医師をめぐる騒動を描いた、2009年公開の『ディア・ドクター』のアナザーストーリーとも言える短編集『きのうの神さま』が、文春文庫から新装版として刊行された。映画のための取材を活かして書かれた、第141回直木賞候補にもなった1冊だ。

 有名中学に進学して村を出たいと願う小学生とバス運転手のささやかな交流「1983年のほたる」、人口500人の離島で留守を預かることになった代理医師の3日間「ありの行列」、小児心臓外科医の夫を支える妻の企みが恐ろしくも痛快な「ノミの愛情」、古い港町で医療を担ってきた医師の去り際の仕事「満月の代弁者」、そして映画と同タイトルながらまったく違う物語に仕立てられている「ディア・ドクター」は、家族という集合体の中のいかんともしがたい相性を浮かび上がらせつつ、明るい余韻を残して印象深い。

 進行がんの父の日々を追ったドキュメンタリー映画『エンディングノート』で監督デビューした砂田麻美『音のない花火』(ポプラ文庫)は、父を見送った体験を落とし込んだ小説だ。両親と三人の子供で構成された家族の歴史と現在が、末娘・藤田しぐさの視点で語られる。

〈家に集まれば必ずひとつは揉め事の種を見つける私たちが、父を無事に死なせるという命題のもと、いつになく互いをいたわり合い、譲り合った〉

 しぐさが父の希望する洗礼を自ら授ける短いシーンで、父が口にする言葉が胸にしみる。親戚の早苗さんや八重洲のバーの店主など、彼らをとりまく人々の造形にも血が通っている。

 西川、砂田両氏には、是枝裕和氏の製作現場に参加し活躍を広げていったという共通点がある。『是枝裕和対談集 世界といまを考える1』(PHP文庫)に収録された鼎談は、三者が「創る」行為について、先輩後輩という立場を超え率直に言葉を交わしている雰囲気が伝わってきて、読んでいてとても気持ちがいい。

新潮社 週刊新潮
2022年5月19日夏端月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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