『野生動物の法獣医学 もの言わぬ死体の叫び』浅川満彦著(地人書館)

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野生動物の法獣医学

『野生動物の法獣医学』

著者
浅川 満彦 [著]
出版社
地人書館
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784805209578
発売日
2021/12/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『野生動物の法獣医学 もの言わぬ死体の叫び』浅川満彦著(地人書館)

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

動物の死解明 現場報告

 二〇二〇年の晩夏、札幌市内のある公園で、多数のカラス類の死体が発見された。これは大きなニュースにはならなかった。メディアは新型コロナ関連の報道に忙しかったのだ。

 しかし、公園のカラスの死屍累々を前にして、地元警察は知らん顔をしていられない。「こういったモノを扱う人たちはいないものか?」と検索して、すぐ近くにある大学の論文がヒット。ヒガラという野鳥の大量死を扱っている。で、警察から連絡を受けたその当人こそが著者だ、という自己紹介から本書は始まる。名探偵登場だ。おかげで私たち読者は、馴染みのない「法獣医学」の世界へすんなりと導かれてゆく。

 人の死因を究明する法医学は、多くのドラマやミステリー小説などで題材とされてきた結果、一般に広く認知されるようになった。一方、法獣医学はまだまだ歴史が浅く、我が国では「飼育動物に関しては法医学に相当するものが萌芽しつつあり、それにつれ『法獣医学』という語も定着しつつある」という状況なのだそうだ。だから、本書で次々と紹介される野生動物の剖検と死因解析の事例は、論文等からの引用ではなく、著者が携わっているリアルな現場からの報告である。著者が本書を著したのも、この分野に関わってしまう可能性のある職業や立場の人びと、この分野に興味を抱いてくれそうな若者たちに広く知識を与え、今後の課題や問題点を共有してほしいという願いからだ。

 もっとも、シンプルに法医学ミステリーとして読んでも、個々のエピソードはスリリングで興味深い。頭を失った複数のハトの死体の謎、感染リスクで命がけの哺乳類と爬虫類の剖検、知床のシャチの集団斃死、難しくて恐怖の法獣医骨学――面白く読み進むうちに、ワンヘルス(One Health)=「人と動物と環境(生態系)がすべてつながっていて、三者が健康であってこそ、人類と地球の望ましい未来がある」という重要な概念に触れることもできるのだ。

読売新聞
2022年5月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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