『給料はあなたの価値なのか』
- 著者
- ジェイク・ローゼンフェルド [著]/川添節子 [訳]
- 出版社
- みすず書房
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784622090557
- 発売日
- 2022/02/14
- 価格
- 3,960円(税込)
書籍情報:openBD
『給料はあなたの価値なのか』ジェイク・ローゼンフェルド著(みすず書房)
[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)
日本でも賃金の格差は大きいが、米国ではさらに大きい。大きな賃金格差はどう説明できるのだろうか。
賃金が被雇用者の能力ではなく「権力、慣性、模倣、公平性」で決まるという本書の指摘は、実はかつて日本の経済学者・高田保馬が主張した内容とほぼ同じだ。社会学から経済学に進んだ高田は、価格や賃金を生産性や需要と供給のほか人と人との権力関係や模倣によっても説明した。社会学者の著者が労働経済学の最新の成果を使った結論が、約90年前の高田の議論を支持しているのは興味深い。
その一方、特に米国で見られるように、賃金は自分の価値を表すと人々が考え、低賃金でもそれが自分の価値であるとあきらめさせられていることは、その結果として社会の不満の高まりを抑える究極の「権力」ではないだろうか。こうした意味での「権力」が存在する限り、著者が賃金格差の解決策として提示する最低賃金の引き上げ、中間階層の復活、富裕層への課税などは、正論である一方で根本的な解決策ではない。本書は格差の要因と同時に、その解決の困難さを示している。川添節子訳。