『新しい世界の資源地図 The New Map エネルギー・気候変動・国家の衝突』ダニエル・ヤーギン著 (東洋経済新報社)

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

新しい世界の資源地図

『新しい世界の資源地図』

著者
ダニエル・ヤーギン [著]/黒輪 篤嗣 [訳]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784492444665
発売日
2022/01/28
価格
3,520円(税込)

書籍情報:openBD

『新しい世界の資源地図 The New Map エネルギー・気候変動・国家の衝突』ダニエル・ヤーギン著 (東洋経済新報社)

[レビュアー] 井上正也(政治学者・慶応大教授)

石油問題 地政学で解く

 資源エネルギー問題の世界的権威であるダニエル・ヤーギンの名は、『石油の世紀』などの著作を通じて、日本でもよく知られている。ヤーギンの強みは、エネルギーという切り口から現代国際政治を読み解くと同時に、それを歴史的文脈のなかに位置づけて論じることができる点であろう。アナリストと歴史家の資質を兼ね備えた希有(けう)な人物なのである。

 本書は、エネルギー分野で起こっている急速な変化と、それに連動する国家間のパワーバランスの変化や緊張の高まりが、世界の地図をどのように変えたかを明らかにしている。

 シェール革命によってエネルギー自給国へ返り咲いたアメリカ、天然ガスの供給を巡って地政学的な対立が続くロシアとヨーロッパ、南シナ海の領有権を主張する一方で、「一帯一路」構想を通じてユーラシアに巨大経済圏を産み出そうとする中国、石油需要の減少が見込まれるなか、構造改革を急ぐ中東諸国。関係者へのヒアリングや豊富なエピソードを盛り込み、冷戦後の協調的であった世界秩序が変化していく情景を大河小説のように描き出す手法は見事である。

 気候問題が注目され、エネルギー転換が叫ばれるなかで、石油の時代は終わりを迎えるのであろうか。著者の答えはノーである。世界経済を支えるエネルギーシステムは巨大である。石油をめぐる地政学リスクが以前より軽減されても、今後数十年は世界のエネルギー供給は、複数の選択肢が競合し、石油は天然ガスと共に引き続き「世界を動かす主要な燃料であり続ける」と予測する。

 カーボンニュートラルは、明るい未来だけが待っているわけではない。急速なエネルギー転換によってグローバル経済構造が変化すれば、途上国と先進国との間に新たな緊張関係を芽生えさせるかもしれない。エネルギーと国際政治をめぐる世界の複雑さを理解するための最良の一冊である。黒輪篤嗣訳。

読売新聞
2022年5月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加