フェイクニュースVSオープンソース 混沌とした世界に立ち向かう勇者とは

レビュー

7
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ベリングキャット

『ベリングキャット』

著者
エリオット・ヒギンズ [著]/安原 和見 [訳]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784480837226
発売日
2022/03/30
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

フェイクニュースVSオープンソース 混沌とした世界に立ち向かう勇者とは

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

 先日の報道番組で、ウクライナ兵が路上の遺体に紐をかけて動かしている映像が流れた。爆弾が仕掛けられていないか確かめるためという。その同じ映像が、ロシアではフェイクニュース捏造のために遺体をセットするウクライナの悪行、として拡散されているらしい。百聞は一見に如かずというけれど、じつは見え方だって解釈次第、立場次第なのだ。

 世界中から非難を浴びるプーチンがロシア国内では多くの支持を集めるなど、戦争プロパガンダが横行する現実を前に、無力感が募るばかり。でもこの本はちょっと勇気を与えてくれた。

 著者は「ベリングキャット」という調査報道ユニットの創設者。もともとはパソコンが趣味の〈ただのブロガー〉だった。2011年のアラブの春をきっかけに、ネットにアップされたSNSの写真や動画、位置情報や名簿などを収集し検証して正確な事実を探り出す「オープンソース調査」に取り組み始める。

 公開された情報などたいしたことがない、と思うかもしれないが、じつは宝の山だった。各国から協力者が集まった調査ユニットは、次々に大スクープを飛ばす。シリアのアサド政権が化学兵器を使用した証拠を発見し、マレーシア航空機撃墜事件の黒幕を暴き……。

 調査ユニットが無名の存在だったころから、世界中の注目を集めるようになるまでの経緯が、具体例やノウハウとともに明かされている。探偵小説を読んでいるような面白さ。

 胸に響くのは、専門知識も権力も持たない一市民が「真実を知りたい」という情熱ひとつで突き進む姿と、それによって生まれる連帯だ。新しいジャーナリズムの解説書として必読だろう。

 日本語版のあとがきで、著者はこう呼びかけている。

〈そう遠くない将来、日本からもあっと驚くオープンソース調査の事例が飛び出してくると期待している〉

新潮社 週刊新潮
2022年5月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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