『音が語る、日本映画の黄金時代 映画録音技師の撮影現場60年』紅谷愃一著(河出書房新社)

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音が語る、日本映画の黄金時代

『音が語る、日本映画の黄金時代』

著者
紅谷 愃一 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784309291864
発売日
2022/03/01
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

『音が語る、日本映画の黄金時代 映画録音技師の撮影現場60年』紅谷愃一著(河出書房新社)

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大准教授)

銀幕支えた 音の演出

 昭和30年代は、大手映画会社が毎週のように新作を上映した、日本映画の黄金時代と呼ばれる。これは個性的な俳優や監督たちだけでなく、美術・音楽・録音など優秀な技術スタッフにも支えられていた。その時代を語る本がどれも魅力的なのは、関わった人間たちの仕事に対する圧倒的な熱量があるからだろう。

 本書は右の時代に録音技師として活躍した紅谷愃一氏の語りをまとめた聞書である(インタビュアーは映画ライター・金澤誠氏)。紅谷氏は戦後大映京都撮影所に入所し、その後制作を再開した日活へ移籍した。大映時代は黒澤明「羅生門」や溝口健二監督の作品に参加し、日活移籍後は川島雄三・今村昌平・蔵原惟繕監督らの下で録音を担当する。

 とりわけ今村・蔵原両監督の信頼を得て、フリーになってからも作品に関わった。また、黒澤監督晩年の作品にも欠かせないスタッフとなった。俳優では、石原裕次郎・高倉健の信頼も厚く、彼らの出演作の多くに参加している。

 録音技師は、映画の「サウンドデザイン」を担当する。音楽・台詞(せりふ)・効果音を総合的に演出する重要な仕事であり、脚本を読みこみ、その作品の基調となる音を的確に判断して、監督や俳優たちと一緒に作品を作りあげる。

 アフレコが主流だった制作現場において、今村監督は同時録音にこだわり、紅谷氏も技師としてそれを主導する。現場の音・発声を活(い)かす方法である。それもあって、俳優たちの口跡に関する話が面白い。滝沢修が明瞭で、反面伊藤雄之助と喧嘩(けんか)したり、初めの頃高倉に台詞を注意したら睨(にら)まれた、といった挿話である。

 角川映画「野性の証明」の最終オーディションで“土の匂い”のする声が印象深い少女がいた。それが薬師丸ひろ子だったという。声を匂いで表現することに意表をつかれた。彼女の代表作「セーラー服と機関銃」での「カ・イ・カ・ン」秘話もある。映画好き必読の本だ。

読売新聞
2022年5月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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