『ピノ:PINO』村上たかし著(双葉社)

レビュー

4
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ピノ:PINO

『ピノ:PINO』

著者
村上たかし [著]
出版社
双葉社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784575317084
発売日
2022/03/30
価格
1,210円(税込)

書籍情報:openBD

『ピノ:PINO』村上たかし著(双葉社)

[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

ロボットから教わる心

 暴力と危険がいっぱいの世界と、ふれあいと愛に満ちた世界のどちらが好きか。人間ならば後者を選ぶだろうが、ロボットにとっては、いいも悪いもないであろう。彼らは入力されるデータをあらかじめ作られたプログラムで処理し、行動する無機的存在だからだ。

 だが、ロボットが心を持ったとしたら――。人間の知能を超えたAIを搭載する人型の量産ロボット、ピノたちを主人公にしたこのSF漫画は、ある限界状況で心を持った2体のピノの行動変容、世界の見え方の変化を鮮やかに描くことで、心という謎に迫る傑作といってよい。

 前半では苦い涙がこぼれる。動物実験や地雷除去などリスクの多い場で働くピノたちは、充電さえすれば文句も言わず、働き続けていたが、ある日、動物実験禁止に伴い、1体のピノがいる研究所が爆破処分されることになる。その命令通り、起爆装置のボタンを押したピノだが、突如「誤作動」し、ある行動に出る……。

 もう一体のピノは介護ロボで、認知症になったおばあさんに、「サトルちゃん」と亡き息子の名前で呼ばれ、仲良く暮らしている。ピノはやさしいのではない。女性の脳内ドーパミンの分泌量の変化などを瞬時に察知し、きめ細やかな対応ができるロボットにすぎない。このピノがある出来事をきっかけに心を持った後にとった行動とは……。3度読み、展開がわかっているのに3度とも熱いものがこみあげた。

 胸がときめく。頭にくる。腸(はらわた)が煮えくりかえるのも相手がいるからで、心とは、ふれあい方次第で千変万化、色や形まで変えることをこの本は伝える。

 何より、人間を安心させるように子どもサイズで、「あざとくデザイン」されたピノが、心を持ち、表情や言葉が変化するにつれて、ますますかわいくなり、思わず抱きしめたくなる。ロボットから、心の「かけがえのなさ」について教わるとは思いもよらなかった。

読売新聞
2022年5月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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