『議員外交の世紀 列国議会同盟と近現代日本』伊東かおり著(吉田書店)

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議員外交の世紀

『議員外交の世紀』

著者
伊東 かおり [著]
出版社
吉田書店
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784910590028
発売日
2022/03/05
価格
4,400円(税込)

書籍情報:openBD

『議員外交の世紀 列国議会同盟と近現代日本』伊東かおり著(吉田書店)

[レビュアー] 井上正也(政治学者・慶応大教授)

国際組織 議会の成熟促す

 国会議員が海外に赴き、他国の政府関係者や議員と交流することは、現代においては珍しくない。だが、今から百年以上前、日本の議員が海外で交流活動を行うのは容易なことではなかった。

 本書は、今も現存する列国議会同盟(IPU)という国際組織に着目し、19世紀後半にヨーロッパで誕生した国際的な議員外交を、日本がいかにして受け入れていったかを明らかにしている。

 非欧米の議会で初めてIPUに加盟した日本であったが、その道のりは平坦(へいたん)ではなかった。初期の頃は、IPUの理念が日本議員団に必ずしも共有されておらず、外務省も冷淡な姿勢であった。

 しかし、第一次世界大戦後、新規加盟国が増えたIPUに対して、国際世論の形成に有益な組織であるという認識が定着していく。日本からも議員団が毎年派遣され、三木武吉、川島正次郎、浅沼稲次郎といった後に日本政治を彩ることになる若手代議士たちが国際感覚を養う貴重な場となった。

 興味深いのは、IPUとの関わりを通じて、戦前日本の議会政治が成熟していく模様がわかることだろう。1930年代はファシズムが台頭し、議会が危機を迎えた時代であった。日本も国際連盟を脱退して国際的孤立を深めていたが、日本議員団はドイツやイタリアと異なり、IPUを脱退することなく議会制度を堅持する姿勢を示し続けた。これにはIPUの場で日本の協調姿勢を演出する狙いがあったが、同時に自由民権運動の時代から育まれてきた議会政治の火を絶やしてはならないとする議会人の矜恃(きょうじ)の現れでもあったといえよう。

 IPUの現実政治への影響力は限られていたが、各国政府の利害から切り離された場であったがゆえに、冷戦下においても超党派で核軍縮のような理念を追求できた。民主主義国の外交は、政府に独占されるべきではなく、世論の支持を得た「国民外交」たらねばならない。国民を代表する各国の議員が集って率直に意見を交わし、妥協点を見いだす議員外交の意義を本書は教えてくれる。

読売新聞
2022年5月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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