「人が好き」だから探偵の職を選んだ――『〈磯貝探偵事務所〉からの御挨拶』小路幸也、二回目の御挨拶

エッセイ

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<磯貝探偵事務所>からの御挨拶

『<磯貝探偵事務所>からの御挨拶』

著者
小路幸也 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914653
発売日
2022/05/25
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「人が好き」だから探偵の職を選んだ――『〈磯貝探偵事務所〉からの御挨拶』小路幸也、二回目の御挨拶

[レビュアー] 小路幸也(作家)

 シリーズにするつもりはまったくなかったのですが、幸い担当編集さんから次もこのメンバーでと言われて「探偵事務所」シリーズになりました。

 ミステリで育った人間なので〈探偵〉というものにはそりゃあもう並々ならぬ思い入れがあります。

 まったく個人的な考えですけど〈探偵〉には二種類います。〈名探偵〉か〈私立探偵〉。いや名探偵だって私立探偵だろう、とツッコミが入るでしょうが違うのです。私の中で〈名探偵〉とは職業ではありません。

〈名探偵〉とはあくまでも〈凄まじい推理力を有する人間〉であり、〈私立探偵〉は文字通り〈探偵を職業とする人間〉。名探偵はそれを職業とする必要はないんです。何せその推理力には〈とんでもない犯罪に巻き込まれる〉能力まで含まれているのですから、わざわざ看板を掲げなくても勝手に犯罪がやってきます。

 一方〈私立探偵〉は、看板を掲げて営業しなくてはなりません。依頼人から案件を貰って解決して収入を得なければただの無職。中々厳しい職業です。

 前作でサブキャラなのに後半ほぼ主人公のような存在感を出していた磯貝(いそがい)が、刑事を辞めて私立探偵になり主人公に昇格です。まだ若いといえる年齢なので他の職業も選べたのに、わざわざ私立探偵という職業を選んだのは、彼は人が好きだからです。人と人が織りなす暮らしの出来事を見つめることが、それについて考えることが何よりも好き。それが趣味と言ってもいい。だから私立探偵という職業を選びました。

 悲劇だろうと喜劇だろうと何だろうと、その人の人生という舞台を見つめて収入まで手に出来るのだから、ベストな選択です。というわけで、地元である札幌に〈磯貝探偵事務所〉開設です。楽しんでいただけたら、嬉しいです。

光文社 小説宝石
2022年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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