女同士の友情は「流動的で、恋と同じく短い。だけど尊い」 山内マリコが新作『一心同体だった』を語る

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一心同体だった

『一心同体だった』

著者
山内マリコ [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914677
発売日
2022/05/25
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

女同士の友情は「流動的で、恋と同じく短い。だけど尊い」 山内マリコが新作『一心同体だった』を語る

[レビュアー] 山内マリコ(作家)

 銀座のカフェで打ち合わせがあり、少し早く着いて手持ち無沙汰にしていたら、となりの席に座った女性二人組の会話が、聞くともなしに耳に入ってきた。彼女たちはまだ知り合って間もない様子だった。遠慮がちで、言葉づかいも定まらず、敬語とタメ口がまじる。もしかしたらまだお互いの年齢を明かしていないのかもしれない。若いけど、三十代の落ち着きが見て取れる。わたしと同年代だ。

 二人はあのあと、仲良くなれたのかなぁ。なんだか、運命的な場に居合わせたみたいにドキドキした。あの二人、仲良くなれてたらいいなぁ。

最後にああいう出会いがあったのはいつだっけ? わたしは友達が少ないから、それぞれの出会いの場面をけっこうちゃんと憶(おぼ)えている。それと同じくらい、仲良くなりそびれた子のことも憶えている。友達だったけど、親友と呼べるほどではなかった子。一時期は親友だった人とも、ここ数年のあいだに距離ができたりもした。作家になったり、結婚したり、自分のことにかまけて忙しくしているうちに、そうなってしまった。

 ともかくわたしは二〇一八年二月に銀座のカフェで、友達になりかけている二人の女性を見たときから、このことを小説に書きたいと思うようになった。構成はその場で決まり、メモに書き留めた。はじまりはAちゃんとBちゃんの物語だ。その次は、BちゃんとCちゃんの話が展開する。次はCちゃんとDちゃん……という具合に、小学生から中学生、高校生、大学生、二十代、三十代と追いかけて、その年代ごとの女子の友情を描きたい。友達は流動的だし、その蜜月は恋と同じで短いものだし、人は歳をとるから。いろんな登場人物が、バトンリレーするように友情でつながっていく、ロンド形式の連作短編にしようと思った。

 書きあぐねているあいだに元号が変わった。自分も四十代になった。そんなわけでこれは、昭和後期に生まれた女性たちの、平成三十年史でもある。

光文社 小説宝石
2022年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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