『日米中枢9人の3.11 核溶融7日間の残像』太田昌克著(かもがわ出版)

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日米中枢9人の3.11

『日米中枢9人の3.11』

著者
太田 昌克 [著]
出版社
かもがわ出版
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784780312096
発売日
2022/03/03
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『日米中枢9人の3.11 核溶融7日間の残像』太田昌克著(かもがわ出版)

[レビュアー] 堀川惠子(ノンフィクション作家)

国家危機 緊迫の証言

 福島の原発事故直後には取材できなかった日米中枢の9人を、10年がかりでしぶとく捉えた。証言から浮かび上がるのは「東日本壊滅」すら想定された事故後7日間の緊迫である。

 グレゴリー・ヤツコ米原子力規制委員会(NRC)委員長の証言は強烈だ。自国民保護に動くアメリカは、日本政府の初動に苛立(いらだ)ちを募らせた。ヤツコはたとえ作業員の命を脅かすとしても事故現場の人員増強を日本政府に迫るようホワイトハウスに進言。問うたのは、核を扱う者の覚悟だ。平時から核戦争に備えるプロ集団アメリカ、「安全神話」にどっぷり浸(つ)かった日本。両者の隔たりは大きかった。

 日本に派遣されたNRCチャールズ・カストー。原子炉建屋が爆発した現場に「仮に核兵器が使われても、これほどのダメージを引き起こすものか」と慄(おのの)いた。安全対策を怠ってきた政策的な危機、原子力への信頼を喪失させた社会的な危機。2つの問題が解決されぬ限り、事故は現在も進行中との指摘は重い。

 日米の不信がとけるきっかけは、陸上自衛隊による上空からの放水。暴れる原子炉に蓋をする「英雄的行動」を誰もが求めていた。防衛省の廣中雅之(統合幕僚監部運用部長)は「彼らは戻ってこないかも」と悲壮な覚悟で隊員を送り出す。瓦礫(がれき)の撤去まで頼ろうとする東電には「自衛隊は何でも屋ではない」と色をなす一幕も。菅直人首相が、東電が全面撤退すれば自ら決死隊として現場に入る準備を進めていたという側近の証言、政治と科学をつないだ「救世主」安井正也(経産省大臣官房審議官)の語りには背筋が凍る。

 福島が最後の事故になると考えるのは間違い、とは冒頭のヤツコの警告。有事を制御する人知には限界がある。想定を超える国家の危機にいかに備えるか。過酷事故の教訓がぎっしり詰まった本書は、核問題の取材歴30年の著者渾身(こんしん)の一冊だ。

読売新聞
2022年5月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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