『有職故実から学ぶ 年中行事百科』八條忠基著(淡交社)

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有職故実から学ぶ 年中行事百科

『有職故実から学ぶ 年中行事百科』

著者
八條忠基 [著]
出版社
淡交社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784473044891
発売日
2022/01/21
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

『有職故実から学ぶ 年中行事百科』八條忠基著(淡交社)

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大准教授)

旬味わう儀礼・祭礼の宴

 クリスマスやバレンタインデーが恒例行事として定着したと言うのも愚かで、いまやハロウィンやイースターまでもが日本に浸透しつつある。これと反比例するように、日本古来の伝統的行事の存在感が薄まっている。わが家でも七草粥(がゆ)や菖蒲(しょうぶ)湯はやらなくなり、土用の丑(うし)がきても鰻(うなぎ)には手を出せなくなってしまった。

 本書は人間の通過儀礼のほか、日本の伝統的な朝廷儀礼や季節の行事、仏事・神事・祭礼などを正月から十二月まで並べ、その由来や歴史的特長などをわかりやすく解説したもので、脚注にはその行事に関する記録や平安時代の儀式書が原文で引用される本格さもあわせ持つ。

 読むと、日本の朝廷儀礼や祭礼に必ずといっていいほど付属する宴(うたげ)では、その季節の旬の食べものを皆で味わうことに主眼が置かれていることがわかる。本書には、供された料理の復元写真や、食材の写真と解説も盛り込まれ、文字どおりの「百科」となっていて、見ているうちに食欲がわいてくる。

 印象に残るのは、十月五日の残菊宴(ざんぎくのえん)だ。濁音による物々しい響きとは裏腹に、咲き残り、「時が移ろい霜を受けて美しく変化した菊の花」を鑑賞する宴。菊は急激な気温低下で霜に遭うと紫色に変化し、それが残菊として人々に愛(め)でられた。散る桜を惜しむ心情と残菊から時の移ろいに思いを馳(は)せる感性は通じあう。村松梢風『残菊物語』や島村利正『残菊抄』といった文学作品を思いうかべた。内容からすればいずれも比喩的な題だが、残菊の風情を知るからこその名づけだったのかと気づかされる。

 六月十六日は嘉定(かじょう)といって、「お菓子を贈り合う日」である。徳川幕府では江戸城内の大広間に大量のお菓子が用意され、挨拶に参じた諸大名に配られたという例が紹介されている。海外の記念日に頼らずとも、こうした伝統的な行事にちなんで仕掛けるのもありなのではないか。六月は目立つ行事もあまりないので。

読売新聞
2022年5月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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