『映画を早送りで観る人たち』
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映画が倍速で「消費」されていく
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
一読し、「参ったな、これは」と天を仰いだ。おそらく、クリエイターと名のつく多くの人々が、本書を読んで同じ感想を抱いたことと思う。稲田豊史『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ―コンテンツ消費の現在形』は、Z世代と呼ばれる若者たちのコンテンツ消費行動に迫った一冊。
若者たちの間に、映画やドラマを倍速で視聴する習慣が広がっている。一〇秒飛ばしや嫌いなシーンのスキップ、何なら途中を飛ばしていきなり最終回を見てしまうことさえ辞さない。そんな見方をしていて面白いのか、制作者の意図を踏みにじる態度ではないのか、とどうしても言いたくなる。
だが現代を生きる若者は忙しい。観るべき、聴くべき、読むべきものは膨大にあって、それらはネットやサブスクでタダ同然になっている。仲間の話題についていくために、つまみ食いだけしておけばよい。さらに、つまらないものに時間を費やすような「失敗をしたくない」心理、できる限り効率よく正解にたどり着きたい心理が加わり、早送り視聴が行われるという。
といっても、本書の意図は単なる若者叩きではない。しっかりした取材と論考に基づいた世代論、コンテンツ論であり、これらに関わる人は必読だ。映像作品も書籍も、こうした時代の変化を踏まえたものになっていかざるを得ないのだろう。一字一句に神経を尖らせて書いている身としては、頭を抱えたくなってしまう傾向ではあるけれど……。