『沖縄島料理 食と暮らしの記録と記憶』
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誠実な取材から浮かび上がる“食”をめぐる沖縄の歴史と暮らし
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
五月十五日、沖縄の本土復帰からちょうど五十年が経った。大きな節目を迎えたいま、「“食をまかなう人びと”の暮らしを通して戦前・戦後から復帰の時代を辿った本」に熱い注目が集まっている。昨年十月刊『沖縄島料理 食と暮らしの記録と記憶』(現在三刷)だ。
本書は二年半前に刊行されロングセラーとなった『沖縄島建築 建物と暮らしの記録と記憶』(現在六刷)から派生したもの。「沖縄は地理的・歴史的に特異なことから、沖縄独自の文化と多様な国の文化が混ざり合い、建築から時代の変遷が窺えます。その特徴は“食”にも通ずるのではないかと思い、続編としてこの本を企画しました」と担当編集者は語る。
実際、本書は沖縄の歴史や風土、特色を学びながら、ドキュメンタリーとしても、写真集としても、ガイドブックとしても読める一冊に仕上がっている。最大の特徴は、丁寧で誠実な取材のありようだろう。中心となったのは、『沖縄島建築』に続いて監修・写真を担当した岡本尚文氏と、沖縄出身・在住で、県内の名物フリーペーパー『夕焼けアパート』を制作しているたまきまさみ氏。「沖縄」をライフワークにしている二人とだからこそ、編集時には何度もやりとりを重ね、言葉や写真を選んでいった。
「私は自戒の念も込めて“取材”は時に暴力になりうると思っています。初対面の方の人生を聞き、それを本という形に残す行為は、その方の人生を変えることや、深く傷つける可能性もある。その土地で暮らす方々にしかわからない思いがあることを理解した上で、外の人間だからこそ気づく価値や魅力もあるのではないかと思います。取材者の言葉を尊重し、フラットな視点での紙面作りを心がけています」(同)
発売後は岡本氏、たまき氏で取材先に直接本を渡しにまわって声を聞き、出版後の影響にも気を配っているという。
琉球王国の香りを伝える伝統菓子。「生きもの」みたいに繊細な島豆腐。米兵の腹を満たし、常連客にも観光客にも愛されるステーキ……。ページをめくれば、それらを支えてきた人びとの営為が浮かび上がる。