「自分をわかってくれる人を探す旅」こそ人生だという理由

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あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる

『あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる』

著者
小澤竹俊 [著]
出版社
アスコム
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784776212058
発売日
2022/05/02
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「自分をわかってくれる人を探す旅」こそ人生だという理由

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

健康で体力があるとき、財力や権力、才能などがあるとき、自由にいろいろなことができるとき、人から頼られる存在であるとき、人は誰でも強く前向きに生きることができます。

ところが、そうしたものを失ったとき、つまり「弱い」自分になったとき、多くの人は苦しみ、絶望し、生きる気力を失います。(「はじめに」より)

こう指摘している『あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる』(小澤竹俊 著、アスコム)の著者は、人生の最終段階を迎えた多くの患者さんたちと関わってきたというホスピス医。つまりこのタイトルは、人間の本質的な部分を表現しているわけです。

とはいえ、そうした人々が本当に弱くなったのかといえば、答えはノー。なぜなら彼らは単に、目に見える「わかりやすい強さ」を失っただけだから。強さにはそれ以外にも、「弱さのなかで見つかる強さ」「弱さから生まれる強さ」があるというのです。

それまで強かった人が、弱さを得て、自分をわかってくれる存在、自分を支えてくれている存在に気づき、感謝し、人生の本当の意味を見つけるのです。

そして、絶望の中にいた彼らが、心の穏やかさを手に入れ、前を向いて最後まで生きていくようになります。(「はじめに」より)

こうした考え方を軸に、著者はここで「いまの自分に後悔せず生きるために覚えておきたいこと」をまとめているわけです。

きょうは第二章「わかってくれる人がいると強く生きられる」のなかから、「人生とは、自分をわかってくれる人を探す旅である」という項目に焦点を当ててみたいと思います。

人は誰も、「自分をわかってくれている」と思える誰かを必要としている

苦しみや痛みを抱え、弱い状態にある人は、「自分の気持ちをわかってくれている」と思える誰かを求めているもの。もちろん、相手が自分の気持ちを100%わかってくれているとは限らないかもしれません。

しかしそれでも多くの人は、「誰かにわかってもらえた」と感じることによって、苦しみのなかにあっても穏やかさを取り戻し、前向きに生きるきっかけをつかむことができるわけです。

誰か一人でも、自分の苦しみを聴き、わかってくれる存在がいる。

自分では「何も成し遂げられなかった」と思っていても、どんな自分、どんな人生であっても、これまで生きてきたこと、頑張ってきたことに対し、「Good Enough」(それで良い)と言ってくれる存在がいる。(61〜62ページより)

そう思えたとき、世の中がそれまでとは違って見えるもの。そして心のなかに、ことばでは表現しきれない前向きな感情が生まれる。著者はそう感じているのだそうです。(59ページより)

わかってくれていると思える誰かの存在は、苦しみのなかの一条の光

たしかに、人生のなかで苦しい思いをするたび、「誰かに自分の気持ちをわかってほしい」と思ったことはどんな人にもあるはず。

病気やけがで痛みを抱えたり、思うように体を動かせず、つらい思いをしたときとか。あるいは失恋したとき、痛手はすぐにおさまらなくても、その悲しみをわかってくれていると思える誰かがいるだけで、気持ちが楽になったとか。

社会人になってからも、なかなか成果があがらないときやトラブルにみまわれたとき、上司が「自分の気持ちや努力をわかってくれている」と感じると、気持ちが落ち着き、仕事へのモチベーションが上がったのではないでしょうか。(63ページより)

このように、「自分の気持ちをわかってくれている」と思える誰かの存在は、とくに苦しみのなかにいる人にとって大きな支えやエネルギーとなり、ときにはその人の人生を導いてくれるということ。(62ページより)

わかってくれていると思える誰かがいると、ありのままの自分でいられる

さらに、自分の気持ちをわかってくれていると思える誰かの存在は、ありのままの自分でいられる強さをも与えてくれるといいます。

たとえば、著者がこれまでに関わってきた患者さんのなかには、体にたくさんの管をつけながら、本当に動けなくなるギリギリの瞬間まで仕事をしていた方もいらっしゃったそうです。あるいは、末期のがんになり、ご自身も大変ななかで老老介護をし、夫を見送ったあとでなくなった方もいらっしゃったのだとか。

「そんな体で仕事をするのはやめなさい」「夫の介護は施設に任せなさい」という人もいるかもしれませんが、私たちには、その患者さんたちにとって、仕事をすること、夫の介護をすることこそが、ありのままの自分でいられることであり、病気の苦しみの中で生きる支えになっていると、感じられました。

私たちは、仕事や介護にいのちを燃やすお二人を静かに見守り、ときには丁寧に話を聴きました。

やがて、その患者さんたちは、満足しきった穏やかな表情でこの世を旅立たれました。(65〜66ページより)

大事にしたいことも、望む「ありのまま」の形も人それぞれ異なるもの。世間でいいとされていることや、大事にするべきだとされていることが、必ずしもその人にとっていいわけではなく、大事なものであるとも限らないわけです。

そして、親でもパートナーでも友人でも、あるいはペットや先に亡くなった誰かでも、自分の気持ちをわかってくれていると思える存在がいるとき、私たちは安心して、ありのままでいることができます。

私たちが自分らしくいられるのは、誰かがわかってくれるからなのです。(66ページより)

だからこそ私たちは、大変な時間と労力、エネルギーを割いてでも、自分をわかってくれる人を探そうとするのでしょう。そういう意味では、人生とは、自分を理解してくれる人を探す旅だと考えることもできそうです。(64ページより)

自分の弱さを認め、受け入れることができれば、本当の強さを身につけることができるーー。そうした価値観を取り入れれば、人生をよりよいものにできるかもしれません。

Source: アスコム

メディアジーン lifehacker
2022年5月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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