『北海道を味わう 四季折々の「食の王国」』小泉武夫著

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北海道を味わう

『北海道を味わう』

著者
小泉 武夫 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784121026903
発売日
2022/03/22
価格
990円(税込)

書籍情報:openBD

『北海道を味わう 四季折々の「食の王国」』小泉武夫著

[レビュアー] 寺田理恵(産経新聞社)

■知る人ぞ知る産地の特権

北海道観光の定番メニューといえばカニやウニといった高級海産物にジンギスカン、ラーメン、スイーツ辺りだろうか。

しかし住んでみると、ほかにもおいしいものが山ほどあると気づかされる。評者は札幌に単身赴任して間もない頃、とある会合で食べたパンが忘れられない。奥尻島のワインや入手困難な江丹別のチーズとともに提供され、道産小麦の香りに鼻腔をくすぐられた。北海道には「春よ恋」「キタノカオリ」など道産小麦の品種にこだわるベーカリーが珍しくない。

大型スーパーでは道産の食材が山積みにされる。春は新鮮なニシン。夏は鮮度がいのちのトウキビ。季節の到来を告げる食材は、人との交流が途絶えがちな新型コロナウイルス禍での自炊生活を支えてくれた。

本書は、北海道でなければ堪能できない山海の幸を有名な発酵学者が食べまくり、つづったエッセーである。「北海道の人以外はほとんど知らないだろう魚」のゴッコや、賞味すれば「忘れられない舌の旅」となるハッカクなど、本州以南では珍しい魚も取り上げている。

東京農業大教授だった著者がなぜ北海道の食事情に詳しいかは、本書のプロローグで明かされる。平成3年に道庁農政部からアドバイザーを委嘱され、農家や水産加工場を指導して歩いた。定年退職前の21年に札幌市で住居を購入。石狩市に研究の場も得て、第二の人生は東京と札幌を行き来しているという。

本書で最初に登場するのは、北海道の歴史と深い関係のあるニシン。春告魚とも書き、「春の味覚はまず海からやってくる」。新鮮でなければ生食が難しいだけに、刺し身は「春の北海道民に贈られた特権のようなもの」。焼いたニシンの楽しみは「腹に収まっているのはカズノコか白子か」。多彩な調理法の中でも、細かく切って麹で漬け込む酒肴「ニシンの切り込み」の記述は発酵学者ならでは。

山菜に果物、野菜と東北6県より広い北海道をかなりカバーし、旅する人には必読の書といえる。ちなみにゴッコとはアンコウに似た冬の味覚で、卵はプチプチ。比較的安く、汁物にするとおいしい。札幌の飲食店で見かけなかったのは、道南の家庭料理だからかもしれない。(中公新書・990円)

評・寺田理恵(文化部)

産経新聞
2022年5月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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