「オーダーは探偵に」著者の最新作! 発売後即重版した話題のビブリオファンタジー『深夜0時の司書見習い』金原瑞人×近江泉美スペシャル対談!

対談・鼎談

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深夜0時の司書見習い

『深夜0時の司書見習い』

著者
近江 泉美 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784049140576
発売日
2022/04/22
価格
748円(税込)

書籍情報:openBD

「オーダーは探偵に」著者の最新作! 発売後即重版した話題のビブリオファンタジー『深夜0時の司書見習い』金原瑞人×近江泉美スペシャル対談!

[文] カドブン

構成・文/高倉優子

■「オーダーは探偵に」の近江泉美さんが新作を発表!
発売後一ヶ月経たずに重版決定した話題作について翻訳家・金原瑞人さんと対談、あらすじもマンガでご紹介

シリーズ累計50万部を突破したメディアワークス文庫の大人気シリーズ「オーダーは探偵に」が昨年ついに完結。近江泉美さん待望の新作『深夜0時の司書見習い』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)は、不思議な図書屋敷を舞台にしたビブリオファンタジーです。発売を記念し、翻訳家の金原瑞人さんとの対談が実現! 感想や創作秘話を語り合うのはもちろん、金原さんによるファンタジーの歴史についての解説など、ボリューム満点の内容となりました。

「オーダーは探偵に」著者の最新作! 発売後即重版した話題のビブリオファンタ...
「オーダーは探偵に」著者の最新作! 発売後即重版した話題のビブリオファンタ…

■キャラクターの作り方が上手い

金原: 今回の対談にあわせて、久しぶりに2015年に発売された近江さんの『雨ときどき、編集者』を読み返してみました。今読むと、初々しさと同時に少し言葉足らずなところもあって……。そこを踏まえて、最新作『深夜0時の司書見習い』を読ませてもらったんですが、数年でこんなに上手くなるのかと驚きました。まず、キャラクターの作り方が上手い。いろんな人が触れ合うことで相手を動かしていますよね。とても面白かったです。

近江:ありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいです。

金原:僕が気になったキャラクターは主人公・アンのお父さんの太一さんですね。これは作ろうとして作れるキャラじゃない。彼はすぐに浮かんできたんですか?

近江:最初は、悲しい生いたちにしようと思っていたんですが、担当者さんから「悲しいお話は……」と言われまして(笑)。そこで明るいお父さんを登場させることにしました。太一の存在が、主人公である美原アンの状態を悲惨にさせないだろう、と。海外の児童書などでは、割とダメな大人って出てきますよね? 個人的にそういうキャラクターが好きなんです。

金原:ああ、確かに。ただダメさが違うんですよね。本当にダメな人が多いから(笑)。でも太一は芯があって、娘のこともよく見ている。じつに魅力的なキャラクターでした。

――つぶれた鼻に眠そうな目つきの喋るペルシャ猫・ワガハイも、魅力的なキャラクターですよね。

近江:世界観が少しややこしいので、ワガハイには図書屋敷と図書迷宮をつなぐナビゲーター役を務めてもらいました。「オーダーは探偵に」シリーズにはたくさんのイケメンが登場したのですが、今作にはあまり登場しません。それで読者サービスの意味でワガハイを「イケネコ」という設定にしようと考えたのですが、これまた担当者さんから、「猫ですよ!」と突っ込まれまして(笑)。それで、今のおじさん風のキャラクターに落ち着きました。

■読書案内としても楽しめる作品

――作中では荘子『荘子 第一冊 内篇』、E・L・カニグズバーグ『クローディアの秘密』、コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』、トルストイ再話『おおきなかぶ』、ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』といった不朽の名作について概要も紹介されていて、読書案内として楽しむことができますね。

金原:それぞれの作品はどうやって選んだんですか? 

近江:翻訳小説で育ったので海外文学中心なんですが、新しすぎず、誰でも知っている作品で、マニアックではないもの。そして、美原アンというキャラクターに必要な物語という観点から選びました。たとえば、『クローディアの秘密』なら、咲百合さんという年齢の離れた友だちとの共通の話題にできる作品であり、「自分のための家出ならいくつになってもしてもよい」というテーマに合うんじゃないか、と。

金原:それぞれの作品がうまく機能しているし、取り込み方も上手いと思います。ただし、個人的には「僕とは趣味が違うな」と思いながら読みました(笑)。というのも僕はシャーロック・ホームズよりルパン派だし、『クローディアの秘密』はあまり好きではなくて、同じ1967年に出版された作品ならスーザン・エロイーズ・ヒントンの『アウトサイダーズ』のほうが好きなんです。

近江:『クローディアの秘密』があまり好きじゃないのはどうしてですか?

金原:説教くさいでしょう?(笑) いい子が主人公みたいなところがあって。60年代は児童文学がそういう役割を担っていた時代ではあるんですけどね。『クローディアの秘密』と『アウトサイダーズ』は正反対の話なんです。前者はいい子が主人公、後者は悪い高校生の話。傾向が違う真逆の児童書が売れ、評価されたという意味で、アメリカの67年は興味深い年なんです。

近江:確かに『クローディアの秘密』は「大人の目線で描かれた子ども」という感じがします。優等生なところも計画性の高さや実行力もちょっと出来すぎですよね。一方で子どもが抱える、どうしようもない衝動というか、ここではないどこかを求める気持ちが鮮やかに描かれているところがとても魅力的だなと思っています。

金原:『おおきなかぶ』を選んだ理由は?

近江:読んだ人が好きに解釈して好き勝手に語り合える。『おおきなかぶ』はそんな懐の深い作品です。読者にも「一番力持ちは誰だと思いますか?」と問うてみたかったんです。

金原:「かぶが一番力持ち」という発想はすごく面白いですね。僕はそんな風に考えたことがなかったから新鮮でした。

■作中作の創作ツールが気になる

金原:そうそう、もみじくん(※)が小説を書いた道具ってなんですか?
(※伊勢もみじ:『深夜0時の司書見習い』の登場人物。現役高校生作家として一世を風靡したのち、表舞台から姿を消した。図書迷宮でアンの手助けをしてくれる少年)

近江:う~ん、なんだろう? 深く考えてなかったかもしれません。

金原:僕ね、創作に使うツールがとても気になるんですよ。

近江:どうしてですか?

金原:大学の授業みたいになっちゃうんだけど、50年代のアメリカでロックが流行った当時、才能がある子は中高生でデビューしていて、ほとんどの人が大学に行っていないんです。日本も同じで音楽畑において大卒は少なかった。サザンオールスターズや中島みゆきがデビューしたとき、大卒というのが新鮮に感じたくらい。
それに対し、アメリカでも日本でも作家は大卒が多かったんです。文章修業というものは、文学について考え、たくさん本を読み、そして原稿用紙(タイプライター)の前で粛々と書かねばならない。つまり手間と時間がかかると思われていたわけです。でも、ワープロとパソコンとスマホといった便利で簡単なツールが登場したおかげで、若くても面白い文章が書けるようになったと思うんです。
僕の娘(作家の金原ひとみさん)は小学5年生から学校に行ってないんですよ。中学はほとんど行ってないし、高校も中退している。だから昔ながらの原稿用紙に手書きで、辞書を引きながら書くということはできないと思う。それがある時、小型のワープロを買ってあげたら文章を書くようになったんです。
もしワープロがなかったらあの子は作家になっていなかったかもしれない。そう考えると、小説も音楽と同じで、便利なツールがあって才能があれば若くても書けるんだなと実感したんです。だからもみじくんにもきっと、いいツールがあったんじゃないかな、と。

近江:すごく興味深い話ですね。もみじが書いたのは私小説のようなものなので、ワープロでもパソコンでもなくスマホにぽつぽつと想いを書きためていったんじゃないかな……。今ふとそう思いました。

■現代人に通用するファンタジーが書きたい

金原:デビュー前から、ファンタジーが書きたいと思っていたそうですね。

近江:はい。子どもの頃からファンタジーが好きでした。「ハリー・ポッター」シリーズが大ヒットした頃、ぶ厚いファンタジーの翻訳本がたくさん出版されたんです。ついにファンタジーの時代が来た! と浮かれてたんですが、ブームが過熱すると本当にたくさんの本が出版されて、あっという間にすたれてしまって……。それで、読みたい作品がないなら自分で書くしかないなと思いました。長い修業期間を経た今なら、読み手のことを考えた小説が書けるかもしれない、と。「現代人に通用するファンタジーを書こう」と模索した結果が今作です。
金原さんのご専門なのでぜひお聞きしいのですが、そもそも、ファンタジー界において「ハリー・ポッター」シリーズはどのような位置づけにあるのでしょうか?

金原:ファンタジーの歴史を遡って解説させていただくと、そもそもアメリカとイギリスでは児童書のジャンルが異なるんです。19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカやカナダで書かれた、マーク・トウェインの『トム・ソーヤの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』、ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』、L・M・モンゴメリの『赤毛のアン』などはジャンルでいえばリアリズム小説です。
それに対し、イギリスはファンタジーなんですね。1865年に出版されたルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』あたりから始まり、J・M・バリーの『ピーター・パン』や、P・L・トラヴァースの『メアリー・ポピンズ』もそう。これが第1期です。
次に第二次世界大戦後、C・S・ルイスの『ナルニア国物語』や、J・R・R・トールキンの『指輪物語』がヒットしたことにより、アメリカでファンタジーブームが巻き起こりました。1960年代になってついに大人にも読まれるようになったわけです。そしてその人気は世界に広がっていく。これが第2期ですね。
ところが少しずつ人気が落ちてきて、70年になるとファンタジーは売れなくなる。そんな中、突如、ミヒャエル・エンデが現れます。『モモ』が73年、近江さんの作品にも登場した『はてしない物語』が79年です。

近江:ドイツから殴り込みのようにやってきたわけですね。

金原:そうそう。でもね、エンデのブームは世界的だったのに、不思議とファンタジーブームにはつながらなかったんですよ。その後、97年にイギリスで出版された『ハリー・ポッターと賢者の石』をきっかけに、世界的なファンタジーブームが到来して今に至る……。これが第3期ですね。ごくごく簡単にまとめると。

近江:素晴らしい解説をありがとうございます。すごくわかりやすかったです! 聞いていて気付いたのですが、私が好きな作品は第1期のものが多いですね。『不思議の国のアリス』のどこか不気味で不可解な世界観は『深夜0時の司書見習い』にも通じるものがあるかもしれません。さらに古い時代の作家ですが『砂男』、『黄金の壺』などのE・T・A・ホフマンや、他にもグリム童話も好きなので、そうした童話や民話の流れも今作に感じていただけると思います。

■デジタルネイティブ世代に届けたい

近江:『深夜0時の司書見習い』を書いたきっかけのひとつに、いわゆるデジタルネイティブと呼ばれる世代の人に届けたいという思いがありました。SNSなどで四六時中、誰かの視線にさらされながら生きている子たちに向けた物語が書けたらいいな、と。誹謗中傷は論外として、いつも人目にさらされる感覚や不安感、自己承認欲求の飼い慣らし方とか、心の負担は大きいと思うんです。そういう負担を少しでも減らせたら……。今の大学生はもうデジタルネイティブですよね。数字などが彼らの価値を決める基準になっている気がして、息苦しそうに見えるのですが、金原さんからご覧になっていかがでしょうか?

金原:デジタルが肥大化していって、ある意味、わかりやすい数字に縛られているのは現代の若者の状態ですよね。でもそれを作りだしたのは大人であり、そうではないよと教えるのが大学教育だと思っています。
僕は今、法政大学で創作の授業を持っていますが、コロナ禍前よりも受講者が約2倍に増えたんです。書きたい、表現したいという人が大勢いるんですよね。原稿用紙3枚から、多い人で20枚くらい書いてくる。僕のホームページにも掲載しているのでぜひ読んでもらいたいですが、なかなか面白いんですよ。

近江:表現したいという気持ちがあるって、とてもすてきですね。情報過多の現代だからこそ、自身の内側の声に耳を澄ませてほしいと思います。自分の感じていることや思いを形にするのは、ものすごくエネルギーのいる作業ですが、言葉にすることで救われることや、気持ちがやわらぐこともあります。

金原:デジタルネイティブ世代も、読みたいと思えば読めるだけの読解力があるし、書ける表現力があると思う。だからそんなに心配しなくていいと僕は思っています。近江さんにはぜひ、読み飛ばせない500ページくらいの小説を書いてほしいですね。

近江:それは書くのが大変そうですけど(笑)。まずは今回「ファンタジーが書きたい」という目標が達成できたので、今後も自分らしい作品を書いていけたらと思います。

■プロフィール

金原瑞人(かねはら みずひと)
1954年岡山県生まれ。法政大学教授、翻訳家。訳書は児童書、ヤングアダルト小説、一般書、ノンフィクションなど600点以上。訳書に『不思議を売る男』『青空のむこう』『さよならを待つふたりのために』『国のない男』『文学効能事典』『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年』など。エッセイ集に『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』『サリンジャーに、マティーニを教わった』、日本の古典の翻案に『雨月物語』『仮名手本忠臣蔵』など。

近江泉美(おうみ いずみ)
東京都在住。2012年、『小悪魔ちゃんとMP0の少年』(電撃文庫)でデビューする。同年、『オーダーは探偵に 謎解き薫る喫茶店』(メディアワークス文庫)を発表。以降、2021年『オーダーは探偵に 珈琲エメラルドは謎解きの薫りに包まれて』まで合計13冊の大人気シリーズとなる。ほか著書に、『雨ときどき、編集者』(メディアワークス文庫)がある。

■『深夜0時の司書見習い』あらすじ紹介漫画

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■作品紹介

深夜0時の司書見習い
著者:近江 泉美
メディアワークス文庫/KADOKAWA刊
好評発売中
定価:748円(本体680円+税)

不思議な図書館で綴られる、本と人の絆を繋ぐビブリオファンタジー。

高校生の美原アンが夏休みにホームステイすることになったのは、札幌の郊外に佇む私設図書館、通称「図書屋敷」。不愛想な館主・セージに告げられたルールを破り、アンは真夜中の図書館に迷い込んでしまう。そこは荒廃した裏の世界――“物語の幻影”が彷徨する「図書迷宮」だった!
迷宮の司書を務めることになったアンは「図書館の本を多くの人間に読ませ、迷宮を復興する」よう命じられて……!?
美しい自然に囲まれた古屋敷で、自信のない少女の“物語”が色づき始める――。

作品紹介ページ
https://mwbunko.com/product/322106001112.html
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KADOKAWA カドブン
2022年05月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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