『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』
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「なんとなくしんどい」を和らげてくれる本
[レビュアー] 有働由美子(アナウンサー)
ファーストネームが「開人」、“人を開く”とはわかりやすっ、臨床心理士の先生って最近芸名使うのか。と思ったらこれご本名。名前が気になり、ご本の多くを読ませていただいている。アナウンサーという仕事柄、他人様から、見た目や発言を評価されやすく、我が信念のみを信ずと強く決心していても、赤の他人の無責任な批評に心は迷わされている。必然救いを求めて“心を整える”“自分を信じる”“人の言うことを気にしないコツ”系の心理学の本を次々に購入する。読了直後は、そうそう! そうだった! 私は私! と改心するものの、数日で元の木阿弥。手っ取り早い心の処方箋は、効能も短め(個人の資質によります)となり、おかげで同じような本、いやときには同じ本を何度か購入してしまうことになる。その点、開人先生の本は少し違う。
「超自我」のことを、誰の心にも存在し、こうすべきだと規範を示したり、価値判断したりする「心の中の上司役」と表現されている。振り返って私の中の上司はといえば、何をやっても駄目まだまだだと叱ってくる。時々自分を褒めようと思っても、いざ褒めるとそんなはずはないと不安になる。自分の心の中に自分を萎縮させる上司が常にいて見張っている。自己肯定感が低く、怖くて勉強や仕事をただただがむしゃらにやってしまう。走り続けるのはしんどいが、休んだときに全てが止まりくずれ落ちていくのが怖くて、目をつぶって走り続ける。そんな弱さを克服できない自分をさらに肯定できずにいる。おとなになってずいぶんと時間をかけて、そこまでは理解できてはいるのだが、それを自分の中でどう良き上司にしていけば、常に自分を認めてあげられるのか。その答えがこの本の中にはある。
「仕事をしていると、気が紛れます」という四十代後半の女性の話は、身につまされる物語だった。自分のことは自分が一番知っていて、コントロールできていると思い込んでいること自体が大きな苦しみだったのかと、クライエントと先生の会話を読みながら気付いた。
それぞれの物語を、先生と同時スタートで一から体験する。一体どんな患者さんなのかを一緒に読み手が探っていく。クライエントと開人先生の結構な本音が刺さり合う感じもリアリティがあり、ときに心地の良い毒としてアクセントになっている。
心が重い方、苦しい方はもちろんだが、私のようになんとなくしんどいという方にこそ読んでいただきたい一冊です。