オーウェルが幻視した「1984年」の100年後を描く“新しい日本SF”の見本市

レビュー

8
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 一九八四年
  • 2084年のSF
  • ポストコロナのSF

書籍情報:openBD

オーウェルが幻視した「1984年」の100年後を描く“新しい日本SF”の見本市

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 ジョージ・オーウェルが1949年に発表した『一九八四年』(高橋和久訳、ハヤカワepi文庫)は、未来の管理社会を描くディストピア小説の代名詞。“ビッグ・ブラザー”“ニュースピーク”“二重思考”など作中の造語は報道や政治の場でもよく使われるし、トランプや習近平やプーチンを語る時はしばしばこの小説が引き合いに出される。『一九八四年』は“いま”を映す鏡なのである。

 同書の時代設定はもともと1980年だったが、執筆が長引くにつれて先送りにされ、最終的に、原稿が完成した1948年の下2桁を入れ換えた1984年になったらしい。

『2084年のSF』は、その1984年の100年後をテーマに日本のSF作家23人が競作した短篇アンソロジー。いまから62年後というのは、現代と地続きながら(01年生まれのうちの長男は、生きていれば83歳になっている)、環境や社会は大きく変化しているだろう時代。SF作家たちは、その時代をどう描くのか。オーウェル的なタイトルを冠した竹田人造「見守りカメラ is watching you」は、老人ホームからの脱走を何度も試みる92歳を主役に心温まる物語を紡ぐ。空木春宵「R_R_」は拍動が禁止され、語法が受動態中心になった社会を背景に、ルビを活用して新たな“二重思考”を表現する。『同志少女よ、敵を撃て』で話題の逢坂冬馬は、無眠技術で到来した超高度生産性社会の悪夢を描く。

 もっとも、23篇の中でディストピアものはごく一部。日本SF作家クラブ会長で声優の池澤春菜が寄稿した「祖母の揺籠」は、海に浮かぶ直径50メートルの半球型の“祖母”が語り手。体内に30万人の子供たちを抱える奇天烈な生物の来歴が語られる。

 筆者の多くは、ここ10年以内にデビューした新鋭たちが占め、“新しい日本SF”の見本市としても読める。同書が面白かった人は、同じハヤカワ文庫JAから昨年出た『ポストコロナのSF』もぜひ。こちらは“パンデミック後”をテーマにSF作家19人が競作している。

新潮社 週刊新潮
2022年6月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加