『共有地をつくる わたしの「実践私有批判」』平川克美著(ミシマ社)
[レビュアー] 小川さやか(文化人類学者・立命館大教授)
環境破壊や格差が深刻化しても、コミュニズムに舵(かじ)を切るとか清貧の思想を実践するといった極端な方向転換は難しい。実際、新自由主義的な資本主義の行き詰まりにおいて人々が再評価する共同体にも、相互監視や個人の自由への干渉など負の側面もあった。そこからの逃走が新自由主義を発展させてきた側面が否めないとしたら、私たちは何を考え直すべきだろうか。
本書は著者自身の経験を交えながら、無制限な私有を批判すると同時に、単なる共同体の復活を目指すのではなく、共同体と共同体の狭間(はざま)にあるアジールのような共有地をつくることの可能性を説いた本である。
濃密な血縁・地縁空間から逃走し、渋谷で起業し、シリコンバレーや秋葉原の電気街でビジネスをしたのちに、著者が始めたのは「隣町珈琲」だった。そこは本などの私有物の一部を共有する、内側でも外側でもない縁側のような場所だ。
誰のものでもあり、誰のものでもない、ささやかな共有地を生活の片隅につくる。「二者択一ではなく程度の問題」として過剰な私有を再考し、乗り越えるヒントを教えてくれる本だ。