『13枚のピンぼけ写真』キアラ・カルミナーティ作、関口英子訳、古山拓絵

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13枚のピンぼけ写真

『13枚のピンぼけ写真』

著者
キアラ・カルミナーティ [著]/関口 英子 [訳]/古山 拓 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784001160369
発売日
2022/03/19
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

『13枚のピンぼけ写真』キアラ・カルミナーティ作、関口英子訳、古山拓絵

[レビュアー] 桑原聡(産経新聞社 文化部編集委員)

■少女が見る戦争の「裏側」

イタリアで最も権威ある文学賞「ストレーガ賞」の児童書部門(11~15歳)受賞作である。

物語の舞台は、第一次世界大戦(1914~18年)下でオーストリアとの戦闘が続いていた北イタリア。少女の視点で戦争の「裏側」が描き出される。

オーストリアで暮らしていた13歳の少女、イオレの家族は大戦の勃発とともに帰国を余儀なくされる。母はこう語りかける。

「戦争というのはね、男の人たちがはじめるものなのに、それによって多くを失うのは、女の人たちなの」

イオレの父と2人の兄は戦争に赴き、母は村に乗り込んできた兵隊の誘惑を毅然(きぜん)とはねつけたため、スパイ容疑をかけられて連れ去られる。

イオレと妹のマファルダは、母の残したメモを頼りに村を離れ、見も知らぬ老女の元に身を寄せる。目の見えないアデーレおばさんだ。姉妹はおばさんから父と母の過去を聞き出し、母が語ることのなかった祖母をおばさんとともに探す旅に出る。おばさんと祖母は助産師仲間だった。

一行はアドリア海に面したグラードという町で祖母を探し出す。迫りくるオーストリア軍。祖母を含む4人の避難行が始まる。道中、4人は大きなおなかを抱えて避難する女性と出会う。女性が破水し、祖母が赤ちゃんを取り上げる。その直後、毛布を探しに出たマファルダは、路傍に落ちていた毛布を拾い上げて悲鳴をあげる。そこにあったのは兵士の死体。生と死が鮮烈に対比される。

出産場所となった空き家に、パンを求めて1人のオーストリア兵が押し入ってくる場面がある。イオレがドイツ語で話しかけ、チーズを差し出す。爆音に驚いた兵士はチーズをひったくり、礼を言って飛び出してゆく。マファルダは意外そうに言う。「いまのがオーストリアのケダモノだったの?」

もつれた家族の糸をほぐそうとする少女の姿と、彼女が目にする人々の悲哀に「公のレンズ」がピントを合わせることはない。しかし、こうした物語こそ戦時下を生きる人々の現実であり、きちんと語り継がれるべきだ。ウクライナ侵攻に重ね合わせると、さらにその感を強くする。(岩波書店・1870円)

評・桑原聡(文化部)

産経新聞
2022年6月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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