標的は総理大臣……2020東京五輪を舞台に暗殺者と警視庁の闘いを描いたタイムリミット・サスペンス

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コヨーテの翼

『コヨーテの翼』

著者
五十嵐, 貴久, 1961-
出版社
双葉社
ISBN
9784575525687
価格
737円(税込)

書籍情報:openBD

標的は総理大臣。2020東京オリンピックの国立競技場を舞台に繰り広げられる「暗殺のプロ」と「警備のプロ」の対決!超絶タイムリミット・サスペンス『コヨーテの翼』五十嵐貴久

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 テレビドラマにもなった『リカ』(主演・高岡早紀)や『パパとムスメの七日間』(主演・新垣結衣)の原作を手掛けた五十嵐貴久。そんな著者が東京オリンピックを舞台にした手に汗握る暗殺劇を描いた『コヨーテの翼』が、このたび文庫になった。世界中が注目する東京オリンピックの開会式で、日本の総理大臣の暗殺を企むテロ組織。タイムリミットが迫る中、果たして警察は暗殺を防ぐことはできるのか。思いがけない暗殺者は誰か。一気呵成にたたみかえる長編エンターテインメントだ!

「小説推理」2019年2月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで『コヨーテの翼』の読みどころをご紹介する。

 ***

ターゲットは日本の総理大臣。東京オリンピックの開会式に向けて進行する暗殺計画を、阻止することができるか。謎の暗殺者と警視庁の闘いが始まった。

 エンターテインメント・ノベルなら、なんでも来い。オールジャンルで快進撃を続ける五十嵐貴久の『コヨーテの翼』は、日本の総理大臣を狙う謎の暗殺者“コヨーテ”と、警視庁の刑事の闘いを活写した、ハード・ストーリーだ。

 2020年。ゾアンベ教国の過激な原理主義者グループ“SIC”は、日本で開催されるオリンピックの開会式で、各国元首やVIPをターゲットにした爆弾テロを計画していた。勢力が弱まっているSICにとっては、乾坤一擲の策である。しかし日本で行動していたメンバーのミスにより、計画が破綻。SICは方針を変更し、謎の暗殺者“コヨーテ”を雇う。新たな計画は、総理大臣を開会式で暗殺すること。依頼を引き受けたコヨーテは日本に潜入し、静かに暗殺の準備を始める。

 一方、オリンピックのために警視庁が作った警備対策本部も、テロを警戒していた。所轄から抜擢された滝本実は、刑事総務課から出向している水川俊介と組み、仕事に追われる。やがて水川の気づきによりSICの新たな計画を確信したふたりは、コヨーテに肉薄していくのだった。

 単行本として刊行した当時の帯には「五十嵐版“ジャッカルの日”堂々の誕生!」と書かれている。なるほど、フランスのド・ゴール首相暗殺を計画するジャッカルと、それを阻止しようとするルベル警視の闘いを描いたフレデリック・フォーサイスの名作『ジャッカルの日』を、意識しているのだろう。しかし本書の魅力は、作者ならではのものだ。

 2020年の東京オリンピックという、注目すべき舞台。サイバー攻撃やドローンの使用といった、現代のテロの在り方。コヨーテ側と刑事側を交互に描き、緊迫感を湛えながら進行していくストーリー。そしてコヨーテの暗殺計画の全貌が判明するクライマックスの、驚きに満ちた展開。手に汗握るとは、このことか。ネタバレになるので詳しく書けないが、興奮必至の面白さである。

 さらに、水川の推理したコヨーテの正体が、あまりにも意外である。はっきりいって、この部分がなくても物語は成立する。それでも作者は、読者を楽しませる奇想を、投入せずにはいられない。ベテラン作家の誠実な創作姿勢に、あらためて感心してしまうのだ。

双葉社
2022年5月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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