元極道×ショコラティエ! 腹を刺されたときの血を見て、新しいショコラの工夫を思いつくスイーツ極道小説

レビュー

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任侠ショコラティエ = Ninkyo Chocolatier

『任侠ショコラティエ = Ninkyo Chocolatier』

著者
新堂, 冬樹, 1966-
出版社
双葉社
ISBN
9784575245165
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

半グレを殴り、ヤクザも追い込む最強ショコラティエの正体は、伝説の元極道。愛と笑いに満ちたスイーツ極道小説を召し上がれ!『任侠ショコラティエ』新堂冬樹

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 血と暴力に塗れた裏社会を描いたノワールから、感涙の純愛小説まで幅広い作風で活躍する新堂冬樹。前者は“黒新堂”、後者は“白新堂”と呼ばれ、「次はどっちで来るのか?」と楽しみにするファンは多い。

 本作『任侠ショコラティエ』の主人公は、伝説の元極道にして、現役ショコラティエの星先直美。向かってくる敵には容赦しないが、女子供と老人には優しい。

 そんな“黒”と“白”のいいとこ取りをしたハイブリット作品について、「小説推理」2022年7月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで、読みどころをご紹介する。

 ***

星咲直美は、元ヤクザにして現ショコラティエ。向かってくる敵には容赦しない。新堂冬樹の新刊は、バイオレンスとチョコレートの香りに満ちている。

本書のタイトル『任侠ショコラティエ』だけを見て、今野敏の新刊だと誤解した人がいるかもしれない。なぜなら、昔気質のヤクザ「阿岐本組」が、書店・学校・病院など、畑違いの経営に乗り出す「任侠」シリーズがあるからだ。しかし、本書の作者は新堂冬樹である。主人公と仕事のギャップは共通していても、今野作品とはまったく違った内容になっているのだ。

新宿歌舞伎町でボンボンショコラの専門店「ちょこれーと屋さん」を営む星咲直美は、かつて武闘派の暴力団「東神会」に所属するヤクザ者であった。規格外のパワーと、愚直すぎる心を持つ直美は、「歌舞伎町の百獣の王」と呼ばれた伝説の存在だ。それは、ショコラティエになっても変わっていない。今でも、自主的にパトロールして、歌舞伎町の住人を守っている。

そんな直美を慕っているのが、「東神会」時代に一の子分となり、現在は「ちょこれーと屋さん」で働いている鬼渡譲二だ。常連客もいて、店はそれなりに回っている。だが、直美を邪魔に思っている「東神会」の若頭・海東が、卑劣な罠を仕掛けてきた。これに激怒した直美は、修羅場に飛び込んでいく。

元ヤクザ者で現ショコラティエ。このギャップを楽しむ話かと思ったらとんでもない。主人公の直美のキャラクターが規格外なのだ。心のままに振る舞い、相手が悪いとなれば当たり前のように半殺しにする。その傍若無人ぶりが、愉快痛快なのである。

そんな直美だから、常連客の営むカラオケスナックが海東の手先に荒らされ、譲二が拉致されると、もう止まらない。圧倒的なパワーで敵をなぎ倒すのだ。ここまで読んで分かったが、本書は一風変わったバイオレンス小説なのである。近年、良質のバイオレンス小説が希少なので、嬉しい贈り物といっていい。

しかも、ショコラティエの部分も手抜きなし。直美が提唱する「ショコラ四ヶ条」は、大いに参考になった。また、腹を刺されたときの血を見て、新しいショコラの工夫を思いつくなど笑える場面も多い。ここも読みどころだろう。

そして本書は、鬼渡譲二の物語でもある。チキンな性格だが、一途に直美を慕う譲二。空回りばかりしている彼の気持ちは、直美に届くのか。バイオレンスとスイーツの香りに包まれた物語の顛末を、どうか読者自身の目で、確認してほしいのである。

小説推理
2022年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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