漢文から和語へ 、と。の発明

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てんまる

『てんまる』

著者
山口 謠司 [著]
出版社
PHP研究所
ジャンル
語学/日本語
ISBN
9784569851822
発売日
2022/04/19
価格
1,056円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

漢文から和語へ 、と。の発明

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 日本語の歴史をふりかえる本ならたくさん読んだけれど、句読点が主役になったものは初めてかもしれない。山口謠司『てんまる 日本語に革命をもたらした句読点』はユニークな本だ。

 大昔の日本語(が記録された古文書など)を見れば、たいていの人は句読点がないことに気づくだろう。そして、現在のかたちの句読点が根づいたのは明治期以来だときけば、やはり西洋の文章表記法に倣って導入したものなのだなと見当をつけるに違いない。しかし、話はそんなに単純でもなさそうなのだ。

 じつは、「、」は奈良時代からあるにはある。そして〈漢文を和語で解釈していくことが必要となったと同時に「てんまる」が生まれた〉と著者は言う。漢文そのものには「てんまる」がない。和歌にもない。それは、両方とも耳で聞いただけで意味がわかるものだからだ。漢文は句読点なしにのっぺりと書かれているように見えて、実は意味の切れ目を示す目印が豊富にある。音読すればより伝わりやすい。

 しかし黙読が主流になるにつれ、句読点というガイドが重要になった。この本は実例が豊富で、文豪や詩人の場合、短歌や俳句の場合、さらにはマンガにおける句読点の使われ方までを検証していて読みごたえがある。たいがいのマンガには句読点がないが、ある出版社のものだけには(すべてではないが)句読点がある! へえーと思って手持ちのコミックスを確認。知的刺激に満ちた本でした。

新潮社 週刊新潮
2022年6月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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