『中庸民主主義 ミーノクラシーの政治思想』崔相龍著(筑摩選書)/『わかりあえない他者と生きる』マルクス・ガブリエル著 大野和基インタビュー・編(PHP新書)

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中庸民主主義

『中庸民主主義』

著者
崔 相龍 [著]/小倉 紀蔵 [監修、訳]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784480017475
発売日
2022/03/17
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

わかりあえない他者と生きる

『わかりあえない他者と生きる』

著者
マルクス・ガブリエル [著]/大野 和基 [編集]/月谷 真紀 [訳]
出版社
PHP研究所
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784569851570
発売日
2022/03/17
価格
1,122円(税込)

書籍情報:openBD

『中庸民主主義 ミーノクラシーの政治思想』崔相龍著(筑摩選書)/『わかりあえない他者と生きる』マルクス・ガブリエル著 大野和基インタビュー・編(PHP新書)

[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

社会の分断 克服する英知

 中庸といえば東洋の古典『論語』の「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」が有名だが、『中庸民主主義』(小倉紀蔵監訳)によると、古代ギリシアの神殿にも「度を越すなかれ」との警句が刻印され、プラトンも節度、中庸を重視したという。

 だが、この徳の実践は難しい。元駐日韓国大使で政治学者、崔相龍氏によると、中庸の概念を創った孔子ですら中庸の至難さを説いただけで、自身のことを君子とは語らなかったという。

 なのになぜ、古今の知性人は中庸を尊んだのか。人間は神のような最善の境地になれず、動物の中で最も残酷になる存在という人間観があったからだと崔氏は記す。不完全な人間には「理性による欲望の統制」、中庸が必要なのだ。

 「新しい実在論」を提唱するドイツの気鋭哲学者マルクス・ガブリエル氏が家族との関係で、「私が正しいときもあれば、娘が正しいときもある」と語るのも、娘と自分は年齢が違っても同じ不完全な人間と考えているからだ。ゆえに家庭内でも喧嘩(けんか)はするが、肝心なのはよい収め方という。その方法は各人の言い分を認め、「皆を勝たせる」。これが中庸の実践で、『わかりあえない他者と生きる』(月谷真紀訳)は、「ラディカルな中道」という視点からコロナ時代の世界を縦横に語る。

 中庸、中立は、左右を足して2で割るものではない。ガブリエル氏は、「意見の相違による暴力沙汰を回避」して民主主義を守るには、両極の「正しい部分を見て、両者の妥協点を見きわめる」ことが大切だと語る。崔氏も、専制と放縦をなくし、人間関係の「葛藤を最小化」する中庸こそ平和への道と結論する。

 自足を忘れた富の過大は人を堕落させ、衣食が足りないと礼節は失われると古代から言われるが、現代では、格差の拡大でますます人は不完全になり、価値観が対立、社会の亀裂が広がっている。節度を失った社会の問題点も考察する両著は、中庸とは差異と分断を乗り越える人類の英知なのだと教えてくれる。

読売新聞
2022年6月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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