『スタッフロール』深緑野分著(文芸春秋)

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スタッフロール

『スタッフロール』

著者
深緑 野分 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163915180
発売日
2022/04/13
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

『スタッフロール』深緑野分著(文芸春秋)

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

映画支える創作の情熱

 映画作りに携わる機会がある人間としては、どんな映画でもスタッフロールを見ると感慨深い。制作の裏側を想像すると同時に、初めてスタッフロールに自分の名前が流れたときの、言いようもない感動を思い出す。また、改めて、一つの作品に関わっている人数の多さに驚かされる。

 俳優、カメラ、編集、脚本、監督……ここに並んで、本書の主人公二人もスタッフロールで名が刻まれる役職だ。でも普段フィーチャーされることが少ない縁の下の力持ち、“特殊効果”に関わる人物たちである。本書は、映画に魅せられた二つの世代の二人の女性クリエイターの壮大なヒューマンドラマを、映画に魅せられた著者が熱情たっぷりに描き出す。

 2部構成になっており、前半は戦後のハリウッド界で奮闘した特殊造形師のマチルダが主人公だ。スタッフロールに名を残せなくても、理想を追い求めて愚直に創作を続けるマチルダだったが、目の当たりにしたCGという技術。それは、マチルダを希望ではなく挫折の道へと導いた。そして物語は、現代のロンドンで活躍するCGクリエイターのヴィヴィアンにバトンタッチする。仕事に追われる日々の中で、自分の才能に自信が持てないヴィヴが苦悩しながら創作に向き合っていく。

 デジタルの進歩により窮地に追い込まれるアナログ。一方ではCGには温かみがないと言われ、特殊造形が再評価される。時代と共に変化する技術、人々の価値観を鋭く映し出している。だが目まぐるしい渦の中に見えてくるのは、根本にあるクリエイターたちの映画への情熱は同じであるということ。ラスト、二人の主人公が隣に並ぶことの意味を考えずにはいられない。

 圧巻の熱量と愛情で書き上げられた作品。<スタッフロールは私たちが確かにいたことの証>。最後まで席を立たずに、スタッフロールを見届けてほしい。そして、拍手を。

読売新聞
2022年6月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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