<東北の本棚>死者の魂を美しく彩る

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

死神の絵の具 「僕」が愛した色彩と黒猫の選択

『死神の絵の具 「僕」が愛した色彩と黒猫の選択』

著者
長谷川 馨 [著]
出版社
宝島社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784299027610
発売日
2022/03/04
価格
789円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>死者の魂を美しく彩る

[レビュアー] 河北新報

 人々の臨終に立ち会い、その魂をあの世へ導く者を「死神(しにがみ)」と呼ぶ。死神が紡ぐファンタジーは、人生のはかなさと美しさを教えてくれる。

 人生を見届ける対価として、死神は好きなものを死者から譲り受ける。主人公の死神「僕」が手にするのは、死者の魂の「最も美しい部分」。魂のかけらをにかわで溶き、絵を描く。幸せな少年時代を過ごした老人の魂は、故郷に咲く桜の花と同じ色。家庭に恵まれず死を選んだ少女の場合は最期に見た夕日の薄紅色だ。読み進めるうち、自分の人生の色彩に思いを巡らせてみたくなる。

 死にゆく人の一生を追体験するのは負荷が大きく、死神の記憶は眠るたびにリセットされる。どんなに美しい人生に出合っても、悲しみに心が乱れてもだ。翌朝、何事もなく仕事を始める「僕」の姿はどこか切ない。仕事の証しに1枚の絵が残るのは、読者にとっても救いだ。

 時折、黒猫のチャールズが現れ、物語にアクセントを添える。皮肉屋だが有能な相棒との軽妙なやりとりがほほえましい。

 著者は仙台市在住。2017年アルファポリス第9回ホラー小説大賞受賞作「サイコさんの噂(うわさ)」でデビュー。本作で第8回ネット小説大賞。
(長)
   ◇
 宝島社文庫03(3239)1926=790円。

河北新報
2022年6月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク