孤独を愛する作家に起きた奇妙な出来事に、担当編集者がむしばまれていく表題作「夢伝い」など、代わり映えしない日常を舞台にした怪談11編を収録する。
水族館で女性が事故に遭った恋人との思い出に浸る「水族」。複数人の視点から母の死の背景が解き明かされる「愛と見分けがつかない」。いずれの作品でも、怪異を引き寄せているのは、この世に生きている人間の闇だ。
見えや執着、無邪気な善意といった、誰もが持っている感情のぬめり。そうしたものが心にたまっていくと、自らが堕(お)ちていく。そんな著者の人間観を垣間見る。(集英社・1980円)
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2022年6月12日 掲載
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