謎掛け形式の連続殺人事件に挑む ダークファンタジーと警察小説を融合させた沢村鐵の作品

レビュー

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警察小説×ダークファンタジー。警視庁管轄には存在しない派出所を舞台に、異界の闇に潜む犯人を神秘的な捜査で逮捕する!『謎掛鬼 警視庁捜査一課・小野瀬遥の黄昏事件簿』沢村鐵

[レビュアー] 池上冬樹(文芸評論家)

「クラン」「極夜」「世界警察」など、警察小説のシリーズでヒットを連発する沢村鐵(てつ)さんが、まったく新しいタイプの警察小説を生み出した。史上空前のSNS犯罪「#謎解きジャスティス」。ネット上で被害者が謎掛け形式で指名されて殺される連続殺人事件に挑むのは新米の女性刑事。コンビを組むのは死んだはずの派出所巡査だった。警察小説でありながら、ダークファンタジー──ジャンルの壁を打ち破った本作の魅力とは!?

「小説推理」2022年7月号に掲載された書評家・池上冬樹さんのレビューで『謎掛鬼(なぞかけおに) 警視庁捜査一課・小野瀬遥の黄昏事件簿』の読みどころをご紹介する。

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クラン・シリーズの著者が辿り着いた新境地。警察小説とダークファンタジーが見事に融合し、リアリズムとは異なる予想外の能力で事件を解決に導く!

 沢村鐵は警察小説の人気作家である。クラン・シリーズ(第1作は『クランⅠ 警視庁捜査一課・晴山旭の密命』。計6作)のみならず、警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結シリーズ(『フェイスレス』ほか計4作)、極夜シリーズ(『極夜1シャドウファイア警視庁機動分析捜査官・天埜唯』)などスケールの大きな警察小説を発表している。しかもジャンル的には警察小説に謀略小説、冒険小説、ゲーム小説の要素も加えて、臨場感あふれる昂奮に富む小説を生み出しているのがいい。

 だから当然、書き下ろしの新作『謎掛鬼 警視庁捜査一課・小野瀬遥の黄昏事件簿』もまた、リアリズムで押す警察小説かと思いきや、これが何とも不思議なのだ。警察小説とダークファンタジーの融合なのである。そのくせ、クラン・シリーズの晴山警部補が小野瀬遥の上司として出てくるし、クラン・シリーズへの言及もあるのだが、小野瀬遥はクラン・シリーズに登場しない。ただし、小野瀬と繫がるわけありの巡査(終盤で名前が出てくる)はクラン・シリーズの重要な脇役であるから、ある意味、本書はクラン・シリーズのスピンオフといえるかもしれない。

 インド出身のIT通信会社社長の一人娘が誘拐される第1話「道案内」、歩いているところを後ろから狙われる連続闇討ち事件を追う第2話「癒やし人 殴り人」、被害者の名前が事前に謎解き問題として提示され、3日以内に殺害されるケースが続く第3話「謎掛鬼」、そして第3話の無差別連続殺人の黒幕へと至る第4話「黒羽根に光輪」で構成されているが、短篇連作の形をかりた長篇であり、サイド・ストーリーが繫がっていく。

 ミステリとしてはばらばらな話がつながる第2話もいいが、やはり暗号めいた謎解き問題を次々に提示して殺していく“謎解きジャスティス”をめぐる第3話が大胆で独創的で面白い。警察小説なのに本格ミステリ的な味わいがあり、やがて犯人探しへとむかうあたりスリリングなのだが、興味深いのは、リアリズムとは異なる予想外のヴィジョン(遥がもつ特殊な能力)を提示して、解決へと導いていく点だろう。冒頭でふれたダークファンタジーである。

 沢村鐵は警察小説の優れた書き手だが、同時に、『封じられた街』『十方暮の町』『あの世とこの世を季節は巡る』『はざまにある部屋』などのホラーやファンタジーを積極的に書いている。本書はまさに、沢村鐵の2つの長所が融合した秀作なのである。

小説推理
2022年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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