「国や民族などの単位で偏見を持つのは愚かなこと」 大航海時代の琉球人の活躍を描いた作家・滝沢志郎が作品に込めた想いを語る【後編】

インタビュー

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エクアドール

『エクアドール』

著者
滝沢志郎 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575245226
発売日
2022/05/19
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

「国や民族の違いは人間がわかりあう上で決定的な要因ではない、ということを伝えたいですね」 今だからこそ読みたい物語がある! 国境を超えた友情が感動を誘う王道冒険小説『エクアドール』発売記念【滝沢志郎氏インタビュー〈後編〉】

[文] 双葉社

大航海時代、琉球人たちは自分たちの島を守るため、遠くマラッカまで命懸けの船旅に出る──活劇あり、友情ありの王道冒険小説『エクアドール』。エンターテインメントとして楽しむことはもちろん、歴史を学び、現在への知見を深める一読の価値がある小説だ。そんな多様性をもつ作品について、著者本人が語ってくれた。

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「終盤である登場人物が発した言葉が、一番の読みどころですね」

──500年近く前の古琉球を舞台にした物語の主人公は元倭寇の王府役人です。この主人公を想起した理由を教えてください。

滝沢:理由は3つあって、1つは、中世の東アジア海域のボーダーレスな状況を体現する人物にしたかったということ。異国人が琉球に移住して役人になるのは、実際に複数の例があります。たとえば少し後の時代ですが、堺の商人だった川崎利兵衛という人物が琉球の役人になり、東南アジア貿易で活躍しています。主人公の眞五羅は、直接的にはこの人物からの着想です。

2つめは、中世の琉球という一般にあまり知られていない舞台を描くにあたって、移住者の新鮮な目が必要だったこと。琉球で生まれ育った人物だと、見るもの聞くものが当たり前で、いちいち興味を示しませんよね。そうすると、物語から離れた説明的な文章が続いて、読者を退屈させてしまう。移住者の体験として当時の琉球を描けば、それほど説明的にならずに済むという狙いです。

3つめは、作者である自分自身が沖縄出身ではないので、琉球の外から来た人物のほうが書きやすかったというのがあります。外からの来訪者が住み着いたり、逆に外に出ていく琉球人がいたり、歴史的に沖縄は内と外とで影響を与えあって今の姿になっている。今も県外・国外からさまざまな人が沖縄に来ていて、一生そこに住み続ける人もいますよね。そういう人たちの先達のようなイメージで書いた部分もあります。

──主人公以外で、1番お気に入りの登場人物を挙げるとしたら、誰になりますか?

滝沢:みんなお気に入りですが、1人挙げるなら与那城樽金ですね。彼は初めは未熟で思い上がった若者として登場するんですが、旅の中で自分の甘さや無力を痛感して、地に足のついた人間になっていくんです。育ちが良いせいか根が素直な性格で、旅の中で異国人の友達もできます。僕の小説の登場人物はだいたい癖が強くて、友達だったら大変かもと思うことが多いんですが、彼となら友達になりたいですね。


『エクアドール』著者の滝沢志郎氏

──小説のなかで、1番の読みどころのシーンをひとつ挙げるとしたら、どこになりますか?

滝沢:終盤で登場人物がある言葉を口にします。その言葉は今では沖縄の有名なことわざになっているんですが、それを最初に発したのはこんな人たちだったかもしれない、という思いで書きました。この物語の集大成のようなシーンです。

──活劇あり、友情ありの王道の冒険小説といえると思いますが、この作品にこめたメッセージがあればお願いします

滝沢:読んで心から楽しんでいただければ、それが1番だと思います。なので、メッセージというより、この物語を書き終えて今の世界情勢もあわせて思うことになりますが、国や民族の違いは人間がわかりあう上で決定的な要因ではないということ。国や言語や宗教が違ってもわかりあえる相手もいれば、逆に、国も言語も宗教も同じなのにわかりあえない相手もいる。誰とでも仲良くする必要はないと思いますが、少なくとも国や民族などの単位で偏見を持つのは愚かなことで、それは忘れたくないですね。

【前編】「蒸気船の登場がいかに革命的だったか実感」 大航海時代を舞台に「琉球人」のプロジェクトXを描いた作家・滝沢志郎が語る

COLORFUL
2022年5月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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