『1%の本質を最速でつかむ「理解力」』
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「理解力」を高め、全パフォーマンスをあげるための「傾聴」テクニック
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
理解力は、人間同士がコミュニケーションを図るうえで、また、自分が何かしらの行動をするうえで、必ず求められる能力です。
相手の話を理解できなければ、その場でのやりとりはもちろん、その後のコミュニケーションでもズレや誤解が生じやすくなります。
思わぬトラブルを招いてしまうことも……。
また、理解が浅いまま行動をすると、ミスが起きる可能性が高まります。
仕事はもちろん、試験やテスト、面接などでも結果を残しにくいでしょう。(「プロローグ」より)
『1%の本質を最速でつかむ「理解力」』(山口拓朗 著、日本実業出版社)の冒頭にはこのような記述があります。「理解していない状態」では、仕事の成果を出せなかったり、人にうまく伝えられなかったり、仕事のスピードが遅くなるなど、さまざまな弊害が生まれてしまうわけです。
しかも著者によれば、「自分は仕事ができない…」と悩んでいる人の多くが「理解度が低い」という問題を抱えているのだとか。そこで本書では、「ほんの少し意識と行動を変える」ことによって理解力を伸ばす方法が明かされているのです。
すべての仕事は「理解する」ことからはじまります。
すべての人間関係は「理解する」ことからはじまります。
すべての行動は「理解する」ことからはじまります。
(「プロローグ」より)
いわば理解力を磨くことは、仕事や勉強、人間関係におけるパフォーマンスを高めること。そんな考え方に基づく本書のなかから、第2章「ステップ①「言葉」を理解する」内の3「『聞く』ことで理解は深まっていく」に焦点を当ててみたいと思います。
「話をしっかり聞く」は理解の第一歩
人は相手の話を聞いているようで、実はあまり聞いていないもの。聞きながら無意識のうちに他のことを考えていたり、「自分はなにを話そうか」と考えていたりするわけです。
それどころか、相手の話に反応して自分の話を始めたり、相手の相談内容もろくに聞かず自説を延々と述べたりする人もいるから困りもの。
そもそも、相手の話を聞くという行為は簡単ではありません。自分とは価値観や考え方が違う人から、その人が「なにを思い、なにを考え、どういう目的でそれを話しているのか」を読み取らなければならないのですから。しかも、ことばそのものだけではなく、「非言語(表情、口調、動き)」の情報をキャッチすることも重要。
そのため著者は、技術としての「傾聴」の重要性を説いています。傾聴とは、相手に興味・関心を寄せ、相手の話にていねいに耳を傾けながら、相手が伝えたい真意を理解し、共感するコミュニケーション技法。
傾聴力を身につけることは、相手の話を聞き逃さないことであり、当然ながら理解度アップにもつながることになります。なお、傾聴するときのポイントは以下のとおりだそう。
・相手を尊重し、真摯に耳を傾ける
・相手を否定しない(肯定的に理解しようと努める)
・相手の目を見て、相槌やうなずきで反応する
・ところどころで、言葉で相手への理解を示す
・言葉だけでなく、相手の非言語(表情や口調、仕草など)にも注目する
・相手の気持ちや感情の理解にも努める
(113ページより)
傾聴の本質である「相手に意識を傾ける姿勢」は、インプット力や情報収集力を格段に高めてくれるといいます。
ただし簡単そうに思えるものの、実際にやってみると傾聴はなかなか難しくもあるもの。うっかり余計なことを口にしてしまったり、上の空になったり、集中力が続かなかったりすることがあるからです。
どうしても傾聴がうまくいかない場合は、話を聞き終えたあと、その内容を要約してアウトプットする(話す・書く)といいようです。アウトプットすることを前提に相手の話を聞くことで、傾聴の質が高まりやすくなるわけです。(111ページより)
「固有名詞」と「数字」に注目、必ず裏づけを確認する
理解力が高い人が注目しているもののひとつとして、著者は数字と固有名詞を挙げています。以下の、AとBの伝え方を読みくらべてみましょう。
A:「かなりの売上が見込めます」
B:「月に1500万円程度の売上が見込めます」
A:「例のアイデアを参考にします」
B:「赤坂の『悠久』が行なった手紙で伝えるキャンペーンを参考にします」
(118ページより)
理解のしやすさという点では、どちらもBに軍配が上がるはず。
Aには「かなり」や「例の」といった、聞く人によってはなにを指し示しているのかがわかりにくいことばが使われています。一方、Bは「月に1500万円程度」「赤坂の『悠久』」「手紙で伝えるキャンペーン」と、具体的な数字や固有名詞を使っています。Aの伝え方だと誤解される恐れがありますが、Bの伝え方であれば誤解される余地がないわけです。
数字や固有名詞は「究極の具体化」とも言えます。
ことビジネスシーンでは、この2つへの意識を高めることで理解度が高まります。(118ページより)
したがって、あいまいな表現を見聞きしたときは、「理解したつもり」にならず、数字や固有名詞を確認するようにすることが大切。もちろん自分が伝わる側に立ったときにも、数字や固有名詞を使う意識を持つべき。そうすれば、相手が理解しやすくなるからです。
ただし数字は、人をあざむいたり、ミスリード(誤読)を誘うために使われるケースもあるもの。「売上が前年比で300%に伸びた」といえば聞こえはいいですが、前年の売上が驚くほど低かったことも考えられるわけです。
そこで数字に遭遇したときは、どのような経緯でその数字が出たのか、裏づけはあるか、ファクトチェック(情報の正確性・妥当性を検証すること)も忘れるべからず。(118ページより)
「仕事のできる人」になりたいのなら、あるいは対人コミュニケーション力を高めたいのなら、理解力に磨きをかけるべきだと著者は主張しています。
なぜなら理解することは、状況、状態、本質、方法、仕組み、雰囲気、目的などを正しく知ることだから。本書を活用して理解力を高め、可能性をさらに広げたいところです。
Source: 日本実業出版社