ゲームチェンジは始まっている 時間切れになる前に
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
十年ほど前、東京・南青山にあったテスラのショールームを初めて見た時の正直な感想は「EVなんて誰が買うんだろう」。それがあっという間に世界屈指の自動車メーカーに成長するとは。まったく気づいていなかったが、あの時もうゲームチェンジは始まっていたのだ。
テスラは、車を製造販売するだけでなく、独自の充電インフラを構築し、発電事業も行うなど、前例のない総合エネルギー企業に進化している。内燃車に例えればガソリンまで生産するようなもの、といえば革新性が伝わるだろうか。評者は国産EVユーザーなのだが、「テスラー」と呼ばれるファンが国内で増え続けているのも当然だと思う。
一方、国産車のEVへの転換はなかなか進まない。日産アリアに続いてトヨタとスバル共同開発のSUV、軽自動車規格の2車種など、今年は国産EVの新車発売が相次ぐが、価格や性能、世間の理解度を考えると爆発的ヒットは難しそうだ。
EVシフトについては批判や異論も多い。だが、焦点がずれた議論が多いのではないか、と警鐘を鳴らすのが本書だ。環境経営コンサルタントの著者は、脱・内燃車の動きは〈世界の潮流であり、やるかどうかを選択できる問題ではない〉ことを、まず理解するべきだと記す。
各国はハイブリッド車も含む内燃車の販売禁止を打ち出している。EV普及は不可逆的に進む。商品価値のあるEVを作らないと、行き詰まるのは目に見えている。日本で売ればいい、と考える人もいるかもしれないが〈日本市場の規模は世界市場のわずか5%に過ぎない〉。
一読するだけで、「日本車敗北」の危機が迫っていることが理解できた。〈時間切れになる前に、EV100%時代にふさわしい戦略に転換することを切に願う〉と著者。まったく同感だ。変革期はチャンスでもある。魅力的な国産EVが続々と生み出されることを期待したい。