『愛国の起源』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
ニッポンの中心で愛国を叫ぶ獣たちに
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
ニッポン凄いとかクール・ジャパンとか美しい国へとかを見聞きすると心が躍る。そんなアナタにお薦めできるのが『愛国の起源』。中韓嫌悪や憲法恐怖が重症で何かありゃ反日だ売国だと騒ぐほどのアナタなら、今すぐ書店に走れ! と背中を押したい解毒剤です。
一方、「愛国心とは、ならず者たちの最後の逃げ場」というサミュエル・ジョンソンの至言を床の間に飾り、「B級愛国=売国」なる公式を編み出し(B級のBをaikokuにつなげると……)、「売国を愛国と書く三代目」なんて川柳をデッチあげるワタシにとってもこの本、眼から鱗が落ち脳から鬱が抜ける強壮剤でした。
著者の将基面貴巳は政治思想史の研究者ながら専門書以外でも達者な書き手。若い世代向けの『従順さのどこがいけないのか』(ちくまプリマー新書)は、読むと頭と心が楽になる実用書の域で、読後もう2冊買って知り合いの子の高校生と中学生に贈ったくらい。
今回の新書も、古代ローマから18世紀の英国、そして明治期の日本までをたどり、多元多様多義多彩なパトリオティズムのありようと(愛の対象は国に限らなかった!)、それが19世紀以降の偏狭偏頗偏陋偏屈な愛国へと煮詰まっていく流れを明らかにしていて、それだけですでに名著。最後には、この21世紀のウクライナ侵攻の時代にパトリオティズムを拗(こじ)らせたり捨てたりするのではなく善用する処方箋まで出してくれる。
さて、今度は誰に送りつけてやろうかね。