この時期の旅は風景の美しさを味わえる

レビュー

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終着駅

『終着駅』

著者
宮脇 俊三 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
歴史・地理/旅行
ISBN
9784309411224
発売日
2012/01/10
価格
748円(税込)

書籍情報:openBD

この時期の旅は風景の美しさを味わえる

[レビュアー] 川本三郎(評論家)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「梅雨」です

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 梅雨どきは旅には向かない。一般にはそう思われている。しかし、旅好きは梅雨の季節にも旅をする。他の季節にはないさまざまな魅力があるから。

 そう書いたのは鉄道紀行文学の先駆け、宮脇俊三。没後、二〇〇九年に編まれたエッセイ集『終着駅』所収の「梅雨の旅の魅力」でその良さを語っている。

 まず梅雨どきは風景がいい。春の桜、初夏の新緑、秋の紅葉に劣らぬ美しさがあるという。水蒸気の力によって平凡な風景が絶景に変わる。

『おくのほそ道』にしてもひときわ旅情が深く、文章、句ともにすぐれているのは平泉から象潟だが、ここを芭蕉が歩いたのは梅雨の季節だった。

 次に花。梅雨どきにはアヤメ、ハナショウブ、ミズバショウ、アジサイなどが咲く。いずれも雨に濡れると美しい。

 さらに苔。これは梅雨どきが最高で「日本的植物美の一つの極致」といえる。

 ホタルは夏の風物詩とされるが、最盛期は梅雨どき。

 それに一人旅などに有難いのは、この時期、乗り物や宿が空いている。

 宮脇俊三がこのエッセイを書いたのは一九八六年のことだが、一読、なるほどと思い、この影響で梅雨どきに旅をするようになった。

 そして気づいたのは、雨に濡れた水田の美しさ。夏の田は稲が育って水が見えなくなるが、梅雨どきはまさに水田。

 コロナ禍の前は毎年、水田の美しさを見るために水郡線に乗りに行っていた。

新潮社 週刊新潮
2022年6月23日早苗月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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