『ノー・ルール! 英国における民俗フットボールの歴史と文化』吉田文久著(春風社)
[レビュアー] 小川哲(作家)
スコットランドに、サッカーやラグビーの起源とも言われている、民俗フットボールという競技がある。実施されている町によって異なるが、町全体がプレーエリアで、ゴールは山側にある城跡の民家の壁と、港の海の中だったりする。町を南北に分け、それぞれの地域に住む町民たちが、何百人も集まって一斉にプレーをする。町の中心に投げられた一つのボールに町民たちが群がり、スクラムを組んでボールを運ぶ。本書のタイトルにもあるように、明文化されたルールはないし、審判もいない。
本書は、現代にも残る「民俗フットボール」の事例をまとめ、分析することで、「スポーツ」の本質に迫る。膨大な資料、現地での聞き取りをもとに、民俗フットボールのプレイヤーたちが何を考え、何を目指してプレーをしているのかを明らかにしている。
民俗フットボールについて考えることは、商業化された現代のスポーツについて考えることでもある。スポーツとは本来、誰のため、何のために存在していたのか。勝利とは何を意味するのか。そんなことを考えるきっかけになる本である。