『日本経済 成長志向の誤謬』神津多可思著(日本経済新聞出版)

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本経済 成長志向の誤謬

『日本経済 成長志向の誤謬』

著者
神津 多可思 [著]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784296113088
発売日
2022/04/15
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

『日本経済 成長志向の誤謬』神津多可思著(日本経済新聞出版)

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

構造改革遅れ 不振の源

 1%をはっきりと上回る実質成長率と2%のインフレ率を比較的短期間に実現するとするいわゆる「アベノミクス」が実施されてからはや10年近くとなる。周知の通りこの政策は、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という「三本の矢」を柱とするものだが、前述の目標は達成できておらず、「日本経済が良い方に向かっている」という実感が国民の間に生まれていないと著者はいう。

 著者は日銀で要職を歴任したのち民間のシンクタンクや経済団体等で活躍してきたエコノミスト。前著『「デフレ論」の誤謬(ごびゅう)』に続き、本書ではこれまでの政策の分析評価と日本経済の活性化の方策についての論考をさらに進めている。

 バブル崩壊から30年間、日本の社会は摩擦を恐れずに一気呵成(かせい)に経済構造を転換する欧米流のやり方を取らず、痛みを出来るだけ少なくする方法を選んできた。これは一方では社会の統合を保つ点でポジティブに作用してきたが、こういう選択をした以上、変革のスピードには限界がある。構造改革が徹底されぬまま、金融緩和や財政出動などのマクロ政策で景気を一気に浮上させようとしても、それは「ないものねだり」に等しく、この構造改革の遅れが日本経済の「不振感」の源であり、またこれ以上のマクロ政策の拡大は困難であるばかりか、むしろ弊害を生むと著者は指摘している。

 時代の急速な変化で必要とされる財・サービスが大きく変わる中、もはや持続的な成長が期待できない「古い需要」に対応した供給構造から、成長を生み出す「新しい需要」に合致した構造への転換を強力に進めることが必要である。そして、その方向性を明確にし「これから良い方に向かう」というビジョンを国民が共有することが肝要であり、そのためにはよりミクロの分野に踏み込んだ政策対応が重要だと結んでいる。経済の状況に変化の兆しも見える中、今後このテーマでの論議の高まりを期待したい。

読売新聞
2022年6月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加