言われた通りにすぐやらなくていい、その理由は?「スルースキル」を身につけると変わること

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

プロカウンセラーが教える他人の言葉をスルーする技術

『プロカウンセラーが教える他人の言葉をスルーする技術』

著者
みき いちたろう [著]
出版社
フォレスト出版
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784866801711
発売日
2022/03/09
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

言われた通りにすぐやらなくていい、その理由は?「スルースキル」を身につけると変わること

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

心理カウンセラーである『プロカウンセラーが教える 他人の言葉をスルーする技術』(みき いちたろう 著、フォレスト出版)の著者は、世の中には「表のしくみ」と「裏(暗黙)のしくみ」があるのだと主張しています。

「表のしくみ」は言語化されているものの、「暗黙のしくみ」は言語化しづらく、多くの場合、わかる人にだけわかるといったものになりがちなのだと。

実際に、「表のしくみ」は繰り返し教えられてきました。それは「言葉」に関して言えば、「人の話を聞かなければならない」「人の言葉は重要だ」といったもの。

しかし、多くの場合、そんな教えはまったく役には立ちません。私たちはその教えに従い散々言葉に振り回されてきたのですから。

さらに厄介なのは、「暗黙のしくみ」の代替手段として流布するもの自体が私たちを振り回すということも生じてしまうのです。(「はじめに」より)

だからこそ、いかに「暗黙のしくみ」を自分なりに身につけ、この世の中に自分の居場所を取り戻すかが重要だというのです。

「表のしくみ」が教えるように、話を聞くことは本当に大切なのか? 私たちが振り回されなければならないほどの価値が言葉にはあるのか? 悩みの解決のためにも、「人間(他人)」と「言葉」の“実際”やその扱い方を一度、お伝えする必要があるのではないかという問題意識が、今回筆を執った動機の1つです。(「はじめに」より)

本書でいう「ことばに振り回されない方法」「他人のことばをスルーする技術」は、まさに「暗黙のしくみ」だそう。

そこには「ことばとはなにか?」「人間(他人)をいかに捉えるか?」といったことが関わってくるのだといいます。その点を踏まえたうえで、6「もう他人の言葉に振り回されない!」内の「『自分の文脈』を育む」に焦点を当ててみましょう。

「自分の文脈」を育む

仕事の場においては、「もっとこうしたほうがよい」「ここは気をつけなさい」など、実務上必要な指摘をされることがあります。著者によれば、ことばに振り回される人は、そういった指摘やアドバイスにも字義どおりに従うことで振り回されてきたのだとか。

すると結果的には、指摘を真に受け取れば受け取るほど自分が固くなって動けなくなってしまう。すなわち失敗を繰り返してしまうことが起きがちだというのです。

そうしたことを避けるために、業務に関する指摘についても、まずはいったんスルーしたほうがいいというのが著者の主張。伝えてくれたことへの感謝は示しつつも、聞き流すべきだというのです。

「さすがに、指摘をスルーしたのではうまくいかないのではないか?」と、疑問に思うかもしれません。ある意味で、それは当然の反応だともいえるでしょう。とはいえ、そのまま受け取ったとしても、「自分の文脈」が育っていない限りはうまく実行できるはずもありません

たとえばスポーツなどにおいて、先輩やコーチから「もっとこうしたほうがよい」と教えられたとしても、自分の身体や技術の準備が整っていないと、いわれたとおりに実行することは不可能。

とくに、それまでの身体の運び方や動かし方とは違う動きの場合はなおさらでしょう。従来の動かし方のほうが楽なので、アドバイスされてもピンとこないということもあるはずです。

しかし、すぐには実行できなかったとしても、何度か同じ失敗をしたり、基礎に繰り返し取り組んだりしているうちに、徐々にできるようになるものでもあります。それは、「自分の文脈」が成長したからにほかなりません。

「自分の文脈」を育て、準備ができたときに変化が起きる

イノベーションの研究で知られるハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授は、人生や子育てなどについて書いた『イノベーション・オブ・ライフ』(ジェームズ・アルワース/カレン・ディロン共著、翔泳社)という本の中で次のように語っています。

「子どもが学ぶのは、あなたが教える準備ができたときではない。彼らは、学ぶ準備ができたときに学ぶのだ」

クリステンセン氏は、素晴らしい子どもを育てた友人に「どうやって子育てしたの?」と尋ねた際に、友人が答えた言葉も紹介しています。

「(夫と)わたしが、我が家の価値観の根幹をなす大切なことを、腰を据えて教えたときのことを尋ねると、何と子どもたちは何一つ覚えていないの」(216ページより)

ここからわかるのは、私たちは「ことば」を耳で聞いて学ぶのではないということ。日常で触れるさまざまなものから「自分の文脈」を育て、準備ができたときに変化が起きるものだということです。最悪なのは、無理やり子どもを座らせて、「私のことばを聞け」とするようなスタンス。それでは、身につくはずもないわけです。

もちろんそれは仕事についてもいえることで、業務に関する指摘を耳から聞いたとしても、私たちは実行できないものなのだと著者は述べています。それどころか、タイミングや文脈に合わないことばは、むしろ毒になってしまうことも多いのだとも。

スルーしたうえで、育つのを待つ

だとすれば、いわれたことを単純に聞き入れ、そのまま改善しようとしても混乱してしまうだけ。だからこそ、結局のところ、ことばはスルーするしかないというのです。スルーしたうえで、植物の根に水をやるように文脈が育つことを待つべきだというわけです。

もちろん、まれに出会うことのある「よい上司」のなかには、「文脈」のことまで意識してことばをかけてくれることもあるようです。とはいえ、そんな幸運ばかりではなく、通常は、「聞いても実行できないし、耳から聞いてもバランスを崩すだけ」というケースが多いそう。

そのため、他人のことばはスルーして転がしておくべきだという考え方。なぜなら大切なのは、自分自身が「自分の文脈」を育むために必要なものはなんなのかと考え、文脈が育つタイミングを待ちながら仕事に取り組むことだから。

決して簡単なことではないでしょうが、意識のどこかにとどめておくべきことかもしれません。(214ページより)

人間やことばの実際がつかめると、スルースキルのみならず、その他の悩み、生きづらさなどを解決するための基盤ができると著者はいいます。

他人やそのことばを恐れず、自分主体でことばを扱い、他人とつきあう手がかりをつかむため、著者の考え方を参考にして見てはいかがでしょうか?

Source: フォレスト出版

メディアジーン lifehacker
2022年6月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク