『人類冬眠計画 生死のはざまに踏み込む』砂川玄志郎著(岩波科学ライブラリー)
[レビュアー] 小川哲(作家)
数多くのSF作品で、人類が冬眠する未来が描かれてきた。遠く離れた星へ航行するためには何十年、何百年という時間が必要で、その時間を冬眠して過ごすためである。冬眠をすることによって可能になるのは、恒星間航行だけではない。輸血や臓器移植の準備ができるまで延命することもできるし、難病の患者を、治療法の確立する未来まで眠らせておくことだってできる。
本書は理化学研究所で冬眠の研究をしている著者が、人工冬眠研究の現在地を示したものである。著者を含む研究グループは、脳の一部を興奮させることで、冬眠をしないマウスを冬眠状態に誘導することに成功している。マウスを冬眠させるという結果を得るまでの過程の中で、冬眠とはどういう状態のことか、冬眠にはどんな種類があるか、動物はなぜ冬眠するのか、といった「冬眠学」の基礎を学ぶことができる。
人類の人工冬眠技術が確立すれば、治療が困難な病気に対して「待つ」という新しいアプローチを得ることができる。まだ研究は途上だが、今後の発展が気になる研究だ。