太宰治は「変人の中でも大変人」 昭和の名作家・5人が語った文壇の「奇人」「変人」とは

対談・鼎談

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太宰治は「変人の中でも大変人」 昭和の名作家・5人が語った文壇の「奇人」「変人」とは


「小説新潮」創刊第二号 写真=青木登

 文豪転生シミュレーションゲーム 『文豪とアルケミスト』(以下『文アル』)の影響によって、明治から昭和の文豪がいま注目を集めている。

 今回は『文アル』5周年を記念した文芸誌「小説新潮」(2022年6月号)の特集に再録された、昭和22年の文豪たちの座談会を特別にWebでも公開。

 75年前の9月9日、文壇『話の泉』と称される會に登場した久米正雄、木村毅、舟橋聖一、今日出海、中村武羅夫ら昭和の名作家5名が、文壇の「奇人」「変人」というテーマで盛り上がり――。

 * * *

昭和22年9月9日
於:新潮社別館
出席者:久米正雄(司会)、木村毅、舟橋聖一、今日出海、中村武羅夫

久米 本日の「話の泉」の質問は、文壇の表裏にわたってのことだから、なかなかむずかしくもあり、回答もデリケートですけれども、一つよろしく願います。まず、あまり差障りのないところで、―

問題
明治、大正、昭和の文壇で奇人、変人と言われる人を五人あげて下さい。

これはまあ見るところに従い、接した範囲によって違いがあるでしょうから、回答に当られる皆さんの御意見を一つ伺いたいと思います。まずリストを提出して頂きましょうか。中村さんは誰をおあげになりますか。

中村 私は、文壇に奇人というのは少いと思うけれども、変人は……。

久米 みんなですか?(笑声)

中村 たいてい偏った性格の特徴をもっているというような点で、変人というのは相当ある。その変人の代表的な者は、生活そのものが普通でなかったという点で坂本紅蓮洞、それから児玉花外、永井荷風、真山青果、大町桂月。

久米 大分古いところですね、その中で年代順にあげると大町桂月が一番古くて、いま生きている方では永井荷風氏、真山青果氏ですが、永井、真山という人は変人の部類かな、中村さんは古くから文壇に接しておられて、その生活環境をよくみておられた方だから……。この御意見はいずれ後で検討することにして、木村さんどうですか。

木村 非常な奇人は中里介山、直木三十五、それにこの間、亡くなった上司小剣氏くらい、僕は五人ないので落弟ですよ。

舟橋 僕も五人はない……やはり変人となればいま中村さんのあげられたような人が変人じゃないかと思う。

木村 小林秀雄とか、菊池寛(笑声)というようなところをすぐ考えさせられますね。林房雄なんかもやはり変人じゃないか、それから太宰治。

久米 これなんかは、変人の中でも大変人だろうね。

舟橋 そういう気がしますね。

久米 僕は、みなさんの中でなかったのは、泉鏡花なども非常な変人だと思うし、それから内田百間氏なんかは変人の仲間を決して免れないと思うね。

(中略)


「小説新潮」創刊号 「小説新潮」は昭和22年9月に創刊された。初代編集長は新潮社三代目社長・佐藤俊夫。 写真=青木登

舟橋 鏡花は、字を書いたものは粗末にしてはいかぬというので、割箸を出しても、その割箸の紙を決して捨てないとか、そういうようなのも一種の迷信というか……。

中村 それから鏡花は、床の間の掛軸の下に紅葉全集を六冊ちゃんと飾って、「私は行詰るとこれを拝むのだ。するととても名文がこんこんとして出てくる」と言っておりましたね。

(中略)

久米 太宰治はやはり天才かな。

中村 一つの麻薬の中毒だったのでしょう。コカインか何かの、戦争の前くらいまでは、そのために非常に苦心もするし、いろいろ奇行的なこともあったようですね。

舟橋 菊池さんが若いころ顔を洗わなかったというようなことも変っておりますね。

(後略)

編集部注:旧字、旧仮名遣いは適宜常用漢字、現代仮名遣いに直し、表記を整えました。

新潮社 小説新潮
2022年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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