「桑田佳祐」の歌詞の奥深さに、「時代遅れの音楽評論家」が迫る!

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桑田佳祐論

『桑田佳祐論』

著者
スージー鈴木 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784106109546
発売日
2022/06/17
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

桑田佳祐の言葉を語ろう。今こそ。

[レビュアー] スージー鈴木(音楽評論家)

音楽評論家で、サザンオールスターズについての著書もあるスージー鈴木による新書『桑田佳祐論』が刊行。サザンとソロ全楽曲のうち26作を厳選、その歌詞を徹底分析したスージーさんが、執筆のきっかけと新刊に込めた想いを語った。

スージー鈴木・評「桑田佳祐の言葉を語ろう。今こそ。」


スージー鈴木さん

 職業柄、若者向けの音楽雑誌をたまに読むことがあるのだが、ほとんどの記事が、歌詞ばかりを云々していることに驚く。

「●●(音楽家名)が放つ待望の新曲は、彼の心の深淵を、かつてないほど赤裸々に発露したメッセージが響き渡る、10年に1枚の大傑作だ」

 音楽評論家として、歌詞ばかりが云々されるのはバランスが悪いと思っていた。ポップスの持つ文学的な要素だけでなく、音楽的要素がもっと語られ、楽しまれるべきだと考えていた。

 だから執筆活動や番組出演において、簡易楽譜を使ったり、コードを擬人化したり、演奏したりしながら、音楽的要素までも含む、言葉本来の意味での「音楽評論」を確立すべく努力してきた。

 そんな中、久々に歌詞のことに目を向けてみたら、「作品がもっとも知られているのに、その作品の凄みがもっとも知られていない作詞家」がいることに気付いたのだ。

 その作詞家の名は――桑田佳祐。

 拙著『サザンオールスターズ 1978-1985』(新潮新書)に記したように、音楽家・桑田佳祐の最大の功績は、ロックのビートに日本語を乗せる方法を確立したことだと思うので、その日本語(歌詞)自体の作品性については、相対的に認識されにくかったのかもしれない。

 また、タイトルからして『勝手にシンドバッド』『マンピーのG★SPOT』『ヨシ子さん』だから、桑田佳祐の言葉は、顔付きからして批評を拒否しているとも言える(それでも今回の新刊は、これら3曲の批評に臆せず取り組んだ)。

 しかし、である。だからと言って、音楽評論家として、これら珠玉のフレーズの広さ・深さ・奥行きを測定しなくていいものかと思ったのだ――「芥川龍之介がスライを聴いて“お歌が上手”とほざいたと言う」「安保っておくれよLeader 過保護な僕らのFreedom」「20世紀で懲りたはずでしょう?」

 この本の仕上げ段階で、桑田佳祐らによる『時代遅れのRock’n’Roll Band』がリリースされた。歌詞の中で桑田佳祐は、自分たちが「時代遅れ」だという彼一流(なのです)の自虐を見せる。

 だとしたら、桑田佳祐の歌詞を云々する、それも最近の音楽雑誌のような厚ぼったいタッチではなく、例えば「20世紀で懲りたはずでしょう?」のような、ある意味、昨今いちばん取り扱いにくいメッセージについて、ストレートに斬り込むなんて、まさに「時代遅れの音楽評論家」だ。

 でも書くんです。ってか、書きました。そして世に問います。何の忖度か「メッセージソング」に臆病な若手音楽家を尻目に、還暦超えのオヤジたちによる『時代遅れのRock’n’Roll Band』が、あんがい新鮮に響く世の中に向けて。

新潮社 波
2022年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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