<東北の本棚>討ち入り 影の人物に光

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板谷峠の死闘 : 赤穂浪士異聞

『板谷峠の死闘 : 赤穂浪士異聞』

著者
日暮, 高則, 1949-
出版社
コスミック出版
ISBN
9784774763606
価格
726円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>討ち入り 影の人物に光

[レビュアー] 河北新報

 「忠臣蔵」で知られる赤穂浪士による討ち入り。米沢、福島両市の境にある板谷峠に、その歴史上の事件にまつわる不思議な伝説が残っている。

 浪士の敵となった吉良上野介に対する夜襲失敗に備えたグループ「後詰め」がおり、その影の組が陣を構えたのがこの峠だというのだ。峠の先には吉良の長男が養子となって藩主を務める米沢藩があり、浪士らは吉良の最終的な逃亡先が米沢になると考えていた。峠周辺には関連する石碑まである。この伝説に着目して書かれたのが本書だ。

 小説の主人公は、討ち入りに参加しなかった元赤穂藩家老の大野九郎兵衛。大野は、当初赤穂城での立てこもりや浪士の一斉殉死を唱えた筆頭家老大石内蔵助と対立し、混乱する藩から行方をくらます。京で隠居生活を送っていた大野の元に訪れたのが、一度はたもとを分かった大石だった。大野は大石に説得され、忘れかけていた武家としての気概を取り戻すように、後詰めの組を率いることになる-。

 赤穂浪士を取り上げた時代劇などで、大野は討ち入りに参加しなかった臆病者として登場することが少なくない。本書は、後詰めという影の組に光を当てることで、従来悪役にされることが多かった大野に対する新たな視点を示している。

 著者は元時事通信社記者。山形県で勤務していた時に板谷峠の伝説を知り、大野への関心を高めた。2003年に同社を退社してフリージャーナリストとなり、中国や社会学関係の著書がある。江戸時代の社会にも興味を持ち、本書が初めての時代小説。後書きに「歴史を変えることはしない」と書いており、少ない史実や伝承から物語を組み立てた苦心が随所に感じられる。(安)
   ◇
 コスミック出版03(5432)7081=726円。

河北新報
2022年6月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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