『日本美術の核心』矢島新著

レビュー

3
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日本美術の核心

『日本美術の核心』

著者
矢島 新 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784480074607
発売日
2022/02/09
価格
1,067円(税込)

書籍情報:openBD

『日本美術の核心』矢島新著

[レビュアー] 黒沢綾子

■リアリズムよりデザイン

西欧および中国の美術が、権力者好みの威圧的な造形を主流としてきたのに対し、日本美術の核心は違うところにあると著者は説く。そういえば、海外の大きな美術館で、泰西名画や中国美術の後に日本美術を見ると、どこか迫力に欠けるように感じたのを思い出す。

では日本美術のオリジナリティーとは何か。日本は明治以降、絵画と彫刻を基軸とするファインアートという西欧の概念を受容したが、むしろファインアートをはみ出すところに独自性があるという。本書は「素朴さ」「わび」、アニミズム的な「多様性」といった日本美術の特質を、絵画から仏像などの彫刻、陶磁器や漆器をはじめとする工芸まで幅広く例にとり、縦横無尽に読み解いていく。

語り口は明快かつ大胆。日本の絵画が「美」を重んじたのに対し、西欧や中国は「真実・真理」、つまり本物そっくりのリアリズムを優先したのではと見る。武士が好んだ鎌倉彫刻のように例外はあるにせよ、日本美術はリアリズムをむしろ避けてきたようだ。目に映るままを表現するよりも、「源氏物語絵巻」のように複数の視点からイメージを合成したり、「洛中洛外図屏風」のように上空から見た想像を織り交ぜたり、デザイン力を発揮し目を喜ばせる方向に向かったのが分かる。

「素朴」や「遊び心」を愛する美意識も日本らしさだろう。江戸時代の禅僧、仙厓(せんがい)の禅画を見ると、ゆるい、かわいいと言いたくなる。権力者や知識層だけでなく、庶民も旅の土産に素朴な大津絵を買い求め、道端の石仏に祈りをささげた。こうした感性は、現代の「絵手紙」などにも通じそうだ。

ただ、西欧や中国との比較だけで日本文化の特質とするのは早計というわけで、本書は日本以外の「周辺」にも少し触れている。例えば、西欧から見て周辺にあたるロシアではイコンの伝統が息づき、民衆向けの木版画には日本人の琴線にも触れるような、朴(ぼく)訥(とつ)な味わいがある。

西欧の近代美術誕生の裏に、浮世絵など日本文化との邂逅(かいこう)があったことはよく知られている。アフリカや中南米など世界の美術をより広くとらえたとき、日本美術はどう見えるだろう。そんな想像もふくらむ。(ちくま新書・1067円)

評・黒沢綾子(文化部)

産経新聞
2022年6月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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