「うつくしが丘」と呼ばれる住宅地に建つ、一軒の戸建ての住人を巡る連作短編集の文庫化。読み進めると時代がさかのぼり、前の住人の思いが明らかになるという構成がおもしろい。
夫と不仲の妻、幼い娘を抱えたシングルマザー、不妊治療がうまくいかない年の差夫婦―。住人の入れ替わりが激しいため、近所の住民はその家を「不幸の家」とも呼ぶ。
だが、その家で暮らす人々は、それぞれに事情がある中で自分たちなりの幸せを求めてあがき、決断している。タイトルに反して、人の温かさと強さを感じる家族小説だ。(創元文芸文庫・770円)

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2022年6月26日 掲載
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