『部下・同僚・チーム、あなたの心に火を灯す新常識 悩みは欲しがれ』
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元ファストリ最年少執行役員が“他人の悩み”に向き合う理由
[レビュアー] 山岸久朗(弁護士)
著者は、あのユニクロを展開するファーストリテイリングで史上最年少の執行役員になった神保拓也氏。現在はファーストリテイリングから独立し、悩める個人や企業の心に火を灯す「トーチング」という面談サービスを提供する会社を経営しているという。
著者がこの本を上梓したのは、これまで同僚や部下の「悩み」に向き合ってきた経験があったから。『悩みは欲しがれ』というタイトルだけ見れば“苦労は買ってでもせよ”というありきたりな慣用句が思い浮かぶが、本書のユニークさは、自分だけでなく他人の悩みをも糧にするという点にある。評者も弁護士として他人の悩みを聞くことを稼業にしているため、興味を引かれて手に取った。
本書を読む前は、その華々しい経歴から、天賦の才に恵まれた傑物かと思ったが、書かれているエピソードを見ると意外にも苦労人である。そしてそのステップアップの裏には、たえず他人の悩み事があった。
誰しも、他人からの悩み相談に乗る局面はあるだろう。だが、それを得意と感じる人は少数ではないだろうか。ほとんどの人は他人の悩みには関わりたくないし、巻き込まれたくない。たとえ、他人の役に立ちたいと本能的に願っていても、である。
他人に悩みを打ち明けられたところで、ふんふんと聞いているだけでは相手は不足に感じるだろうし、ひとたび相談者の意に染まない回答をすれば、仲が悪くなることすらある。他人の悩みは、ともすれば自分の悩みより厄介なのだ。本書はそこに光を当て“悩み相談”の極意を教えてくれる。
悩み相談では、相談者自身が自分の悩みの本質を分かっていないケースも多い。その悩みに正面から向き合い徹底的に寄り添うことで、本人も気づいていない真の悩みの源を引き出してあげる。悩みを解決することに主題があると言うよりも、悩みに伴走してあげることが何より重要なのだ。そしてそのことが自分自身や、チーム全体の成長にも繋がるのだという。著者が“他人の悩みを欲しがれ”と主張する理由はそこにあるのだ。
“そんな綺麗ごとを……”と思われるかもしれないが、本書は単なる理想論ではなく、具体例がたくさん盛り込まれていて分かりやすい。コロンブスの卵な気づきに溢れている。
話し上手よりも、聞き上手のほうが人間的にモテる。話し下手でコミュニケーション能力を鍛えたいと思っている方にもお勧めの一冊である。